研究課題/領域番号 |
26713030
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
武内 敏秀 京都大学, 化学研究所, 助教 (70600120)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポリグルタミン病 / ドラッグデザイン |
研究実績の概要 |
本研究では、ポリグルタミン(PolyQ)タンパク質に選択的結合活性、凝集阻害活性を有するペプチドQBP1の構造情報をもとにして、凝集阻害化合物の開発を目指す。この目的において、PolyQタンパク質と複合体を形成した状態におけるQBP1の立体構造解析を行った。これまでに、QBP1ペプチドの15Nラベル体(15N-QBP1)、およびモデルPolyQタンパク質(チオレドキシン融合体、Thio-PolyQ)の大腸菌発現系を用いた調製法を確立した。また、等温滴定型カロリメトリーにより、QBP1とThio-Q62との結合モードに関する知見を得た。この結果に基づいて、15N-QBP1をThio-Q62と複合体を形成させ、NMR測定を試みた。しかし、Thio-Q62が測定中に微細な凝集体を形成し、15N-QBP1もこれに取り込まれるため、NMR測定が困難であることが示唆された。Thio-Q62の代わりに、より凝集性の低い短鎖PolyQタンパク質であるThio-Q45、Thio-Q35を用いたが、同様に測定が困難であった。これらの検討から、凝集性のより低いPolyQタンパク質の調製がNMR測定に必要であることが示唆された。また、薬物を脳内にデリバリーする手法の開発を目指し、細胞移行性ペプチドPTDのin vitroにおける網羅的BBB透過性評価を行った。その結果、複数のBBB透過性PTDを同定したため、ラットにおいて検討を行ったところ、そのうちの一種について高い脳内移行性を確認した。一方、分子シャペロンと呼ばれる防御因子がPolyQタンパク質の凝集を抑制し、神経変性を抑制することが知られているが、ショウジョウバエ個体を用いた検討から分子シャペロンが細胞非自律的に神経変性を抑制することを見出し、論文発表を行った(Takeuchi et al, PNAS 2015)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に引き続き、構造解析に必要な試料調製および実験系の立ち上げが順調に進んだ。これまでに明らかとなったNMR測定上の問題点を踏まえ、QBP1の構造を明らかしていく。一方、PTDのスクリーニングから脳内移行性キャリア分子の候補を得ている。また、PolyQ凝集に着目した検討から分子シャペロンの細胞非自律的な機能を見出し、論文発表した。総合的に考え、概ね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討から、Thio-PolyQが測定中に微細な凝集体を形成し、15N-QBP1もこれに取り込まれるため、NMR測定が困難であることがわかった。そこで本年度では、チオレドキシンの代わりに、より凝集性の低いグルタチオン-S-トランスフェラーゼやマルトース結合タンパク質などを融合タグタンパク質として用い、これらとの融合PolyQタンパク質を調製し、再び15N-QBP1のNMR測定を行う。これらの解析により、凝集抑制活性に必須のQBP1の立体構造・側鎖配置に関する情報を得る。また、Thio-PolyQとの複合体形成時におけるQBP1の立体構造を模倣し、凝集抑制に必須な構造条件を満たす低分子凝集阻害化合物(QBP1アナログ)をin silicoで設計する。候補分子のうち、高い活性が期待され、合成が比較的容易なものを複数選択して合成し、in vitro凝集濁度アッセイにより凝集阻害活性を評価する。また、薬物を脳内にデリバリーする手法の開発を行う。これまでに同定したBBB透過性PTDをキャリア分子として活用し、薬物モデルとしてQBP1を脳内移行させることが可能かを検討する。PTD-QBP1コンジュゲート体を作製し、これがマウスへの末梢投与で脳内に検出可能かどうかについて、投与法や投与量などを変えて詳細に調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
PolyQ/QBP1複合体のNMR測定を行ったが、QBP1の構造決定までは至らなかった。そのため、QBP1の小分子アナログの設計・合成まで実験が進まなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においてQBP1の小分子アナログの設計・合成を行うための物品費に使用する。
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