研究実績の概要 |
【背景・目的】大動脈瘤の標準的治療法である人工血管置換術は、瘤破裂予防効果は絶大だが侵襲が大きいため、新たな低侵襲治療法の開発が望まれる。これまでに大動脈瘤に対する間葉系幹細胞療法の有効性を報告してきた。本研究では治療に最適な条件検討や分子メカニズムの解明、前臨床試験を行い、臨床応用を目指す。平成26年度では、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)による大動脈瘤治療効果の分子メカニズムについて検討した。 【実験】24週齢以上、雄のapolipoprotein E遺伝子欠損(apoE-/-)マウスに、背部皮下に埋入した浸透圧ポンプからAngiotensin-II (ATII)を4週間持続注入することによる大動脈瘤モデルマウスを作成した。ATII持注4週間後に1+E06個/0.2ml BM-MSCを尾静脈投与した。対照群には生食を投与した。細胞投与から2週間後に大動脈瘤組織を採取してタンパク抽出し、ウエスタンブロッティング法にてJNK, NF-kB, SYAY1, ERK, Smad2, Aktを検出し定量評価した。 【結果】横隔膜下に大動脈瘤形成が認められ、瘤径は生食群に比べBM-MSC群で有意に縮小した。同部位における瘤発生率は、生食群に比べてBM-MSC群は有意に低下した。JNK、Smad2、ERKは両群間に差がなかったが、NF-κB, STAT1が有意に活性低下し、Aktが有意に活性上昇した。また、NF-κBとAktは瘤径との間に相関関係がみられた。このことから、BM-MSCによる大動脈瘤治療における分子メカニズムには、NF-κB, STAT1, Aktシグナル伝達機構の関与が示唆された。 【今後の予定】現在の瘤径評価方法は、屠殺後のendpointのみの評価となっており大動脈瘤の縮小効果の証明が十分でないと考える。従って、一個体の連続した瘤径の変化を細胞投与前後で追跡することで、細胞投与による大動脈瘤縮小効果を確認する。また、先行研究で細胞療法の持続は2週間であったことから、投与細胞数や投与回数の最適化を図る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度での計画では、一個体における継時的な大動脈瘤径の変化を追跡し、細胞投与による大動脈瘤縮小効果を確認する予定であったが、マウス大動脈を非侵襲的に観察できる超音波画像診断装置がなかったため遂行することができなかった。また、投与細胞数や投与回数の条件検討においても、超音波画像診断装置による評価が必要であるため検討できなかった。しかしながら、分子メカニズム解明のためのシグナル伝達について調査し、NF-kB, STAT1, Aktシグナル伝達機構の関与を明らかにすることができた。従って、現状ではやや遅れていると判断した。
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