骨代謝を制御する主要なリガンド分子であるRANKLが、受容体としても機能する双方向性シグナル分子であるとの発見に基づき、いずれもRANKLを発現するT細胞、滑膜細胞、軟骨細胞の分化・代謝バランスの破綻から引き起こされる関節リウマチの発症・増悪過程において、RANKL逆シグナルがどのような影響を与えうるのか、動物およびin vitro細胞モデルでの検証を行なった。 RANKL逆シグナルの減弱が認められる細胞内領域点変異型RANKLのノックインマウスにおいて、コラーゲン誘発生関節炎を誘導したところ、野生型の同腹仔と比較して、関節の腫脹等の炎症状態の悪化傾向が認められた。一方で、下肢骨の組織標本を観察すると、最終的な関節・骨破壊の程度には有意な差は認められなかった。以前の検討より、破骨細胞の活性化においてRANKLの供給源となる骨細胞内でもRANKL逆シグナルが生じ、効率的なRANKLの提示が行われていることを見出しており、点変異によってこのシステムの効率も低下していることが示唆されている。これらを踏まえると、関節リウマチの発症・増悪に関わる各種の細胞において、RANKL逆シグナルが必ずしも全て病態の悪化に寄与するとは結論できず、個々の細胞系を用いた検証が必須であると考えられた。 近年の研究より、関節リウマチにおける炎症状態に大きく影響することが明らかとなっているTh17サブセットへの分化では、細胞内でのmTOR経路の活性化が必須であると考えられている。RANKL逆シグナルの下流においてもmTOR経路が活性化することを骨芽細胞での検討から見出しており、T細胞由来Jurkat細胞においても同様の結果が得られた。軟骨細胞を含め、より包括的なシグナル活性化プロファイルの検出が可能な、リン酸化プロテオミクスの実験系の構築が完了したため、今後、これを用いてより詳細な解析を実施する予定である。
|