研究課題/領域番号 |
26713051
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
田中 里佳 順天堂大学, 医学部, 准教授 (70509827)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 創傷治癒 / 再生治療 / 慢性炎症 / 糖尿病 / 難治性潰瘍 / 血管内皮前駆細胞 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
糖尿病性潰瘍において壊死が進行すると、壊死組織の上流部を切断する治療選択を避けられず、20秒に1人の患者が下肢を切断されている(Lancet 2008)。難治性の患者に特異的なバイオマーカーは未だ開発されておらず、治療開始前の予後の的確な予見は、極めて困難である。本研究では、糖尿病性潰瘍におけるM1/M2マクロファージ(以下M1/M2細胞)が関与する慢性炎症の役割を解明し、細胞治療の効果をさらに発展させるための基盤を整える。平成26年度において糖尿病潰瘍モデルマウスを用いて、糖尿病性潰瘍部分の慢性炎症メカニズムを解明した。糖尿病性潰瘍の創傷治癒遅延の原因が皮膚のM1細胞(炎症マクロファージ)とM2細胞(抗炎症マクロファージ)の活性異常に着目し、潰瘍治癒と炎症を結ぶ因子について、糖尿病潰瘍モデルマウスを用いて検討した。潰瘍作成前の糖尿病マウス皮膚では炎症性サイトカインであるIL6の発現量が高く皮膚における慢性炎症が遷延していることが示唆された。そして、糖尿病マウスにおいては皮膚の損傷前においてM1細胞からの炎症シグナルが正常に惹起されないため、その後M2細胞からの皮膚再生シグナルの発現が遅延し、創傷治癒遅延が生じてしまうことを明らかにした。(現在、PLOSOneに投稿準備中)平成27年度においては、糖尿病患者において末梢血CD34+細胞におけるPGC1αとNotchシグナルの障害が存在していることを明らかにし、Hybrid QQc培養においてはPGC1αとNotchシグナルの障害を改善し、血管新生能を改善、潰瘍モデルマウスにおいてHybrid QQc細胞は創傷治癒を促進することを明らかにし、潰瘍組織における抗炎症効果、血管新生効果があることを証明した。(現在Diabetes 投稿準備中)本結果よりHybridQQc細胞は糖尿病潰瘍組織における慢性炎症を改善する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度にはHyQQcに含まれるサイトカインとNotchシグナルによるM1/M2細胞制御の役割を明らかにし、平成27年度以降は糖尿病潰瘍モデルマウスを用いて、糖尿病性潰瘍部分の慢性炎症メカニズムを解明する計画となっていた。平成26年度に糖尿病性潰瘍の慢性炎症による創傷治癒遅延の分子メカニズムを明らかにすることができ、現在論文が完成し、投稿を行っている段階である。また、平成27年度には糖尿病患者における末梢血CD34+細胞のNotch障害を明らかにし、HyQQcがその機能障害を改善し、HyQQc細胞が糖尿病性潰瘍における炎症制御に関与することを明らかにし、現在論文が完成し、Diabetesに投稿を行っている段階である。以上の結果から実験計画は順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度から来年度にかけて、さらに糖尿病患者の HyQQcによる組織再生・慢性炎症制御不能患者の責任因子を同定する。 20%の糖尿病患者では慢性炎症制御不能によってHyQQc法が適用不可、ならびに、ヌードマウス 潰瘍へのHyQQc細胞移植で血管再生・組織再生・抗炎症効果が有意に低いという課題 (Circulationに投稿中)を受けて、M2細胞における転写因子IRF4(Eur.J.Immunol. 2011)等の Epigenetic変化が、HyQQcの慢性炎症制御不能の原因と申請者は予測した。そこで制御不能患者 のHyQQc細胞におけるIRF4メチル化状態をChIP法等にて解析し、遺伝子学的特徴としてEpigenetic の変化を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた実験が年度末直前に変更になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の実験を次年度に実施する。
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