研究課題/領域番号 |
26730015
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
原瀬 晋 立命館大学, 理工学部, 嘱託講師 (80610576)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 擬似乱数 / モンテカルロ法 / 準モンテカルロ法 / マルコフ連鎖モンテカルロ法 / 確率的シミュレーション / 数値積分 |
研究実績の概要 |
マルコフ連鎖準モンテカルロ法と密接に関係する、擬似乱数発生法の高次元均等分布性、並びに、超一様分布列を用いた数値積分法(準モンテカルロ法)に関する研究と実装を行った。研究を進める中で、重要度が高い関連研究課題が複数見つかり、それらを重点的に進めた。 1. 64ビット高性能線形擬似乱数発生法の開発 前年度から開発を行っていた64ビット最適均等分布メルセンヌツイスタ法を論文として完成させ、投稿した。合わせて、C言語プログラムを作成し、ホームページ上で公開した。その後、幾つかの追加機能を付ける研究を行った。特に、並列・分散コンピューティングを行う際、擬似乱数列がオーバーラップしないように、初期値を割り振る必要がある。そこで、愛媛大学の原本博史氏らにより開発された高速ジャンプアルゴリズムを本研究の発生法でも使えるように実装した。また、SFMT19937やMT19937など32ビット用に最適化された発生法の出力を連結して64ビット化した場合の均等分布次元を計算し、32ビット出力よりも均等分布次元が低下することを発見した。 2. 超一様分布列を用いた計算ファイナンスの研究 Sobol'列と呼ばれる超一様分布列は、1990年代以降、金融工学に現れるいくつかの超高次元数値積分に有効であることが知られている。Sobol'列は一様性を決めるパラメータを有しており、その選択には自由度を持つため、複数のSobol'列が開発されている。そこで、いくつかのソフトウェアに実装されているSobol'列を準備し、どのSobol'列が最も有効かをファイナンスの問題に適用して、数値実験を行った。その結果、様々なオプション価格やMBSなどの計算について、Joe-Kuo(2008)による2次元プロジェクションを最適化したSobol'列を用いると、他のSobol'列と比較して、有効であることが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
モンテカルロ法国際会議MCM2015において、64ビット最適均等分布メルセンヌツイスタ法の口頭発表を行い、擬似乱数分野の権威であるモントリオール大学のL'Ecuyer教授に高く評価された。また、計算機環境の64ビット化が進展する中で、従来の32ビット版メルセンヌツイスタ発生法を連結して、64ビット整数として用いる方法がしばしば実装されている。この実装はIEEE754の倍精度浮動小数点数を発生する際に現れる。このような連結を行い、64ビット化した出力の高次元均等分布性を調べたところ、通常の32ビット出力に比べて均等分布次元が下がり、乱数性が低下することが分かった。この観点からも、本研究で開発した64ビット最適均等分布メルセンヌツイスタ法は有用性を持つと考えられる。 一方、ファイナンスに現れる高次元数値積分に対して、有効なSobol'列の特徴が数値実験から確認された。いままで、包括的な研究が十分に行われていなかったため、実務家にも有益な情報だと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、いままでの研究のまとめとして、マルコフ連鎖準モンテカルロ法の実装を目指す。この実装では、擬似乱数の一様性の指標である高次元均等分布性や準モンテカルロ法における(t, m, s)-netのt-値やランダマイゼーションなど、これまで研究してきたテクニックがそのまま有効となる。 また、Sobol'列についてベンチマークテストを行ったところ、いくつかのファイナンスの数値積分において、低次元プロジェクションの最適化が有効であることが数値実験から確認された。そこで、更に収束精度を上げるために、Sobol'列そのものを改良する研究の方向性が見えてきた。以前、Sobol'列のパラメータを変更するためのプログラムを作成しており、手が付けやすい問題のため、Sobol'列の改良も試みたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
京都産業大学や神戸学院大学での学会、近隣の龍谷大学の研究集会など、関西地方で主要な学会・研究集会が開催されたため、旅費が予定額を下回った。また、MCM2015に出張した際、学内の安価な宿泊施設に泊まり、宿泊費の減額を行ったため、次年度への繰り越しが生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
2016年8月に、アメリカのスタンフォード大学で開催されるモンテカルロ法分野の最も大きな国際会議であるモンテカルロ・準モンテカルロ法国際会議MCQMC2016に参加し、研究成果の発表を行う。また、数値実験を行うために、最先端のCPUを搭載した計算機を購入したい。英語の論文を作成した際に英文校正業者に依頼する予定である。プログラム作成の補助として大学院生を雇うことなどを計画しており、謝金が必要となる。
|