研究の全体構想は、生体機能の本質的理解を支援するため、多様な生体機能を統合した大規模生体モデルの高速なシミュレーションを生体機能研究者に提供することである。この構想のもと、これまでに汎用生体シミュレータ Flint を開発し、生体機能モデル記述言語 PHML で記述した生体モデルから並列実行可能なシミュレーション・プログラムを自動的に生成する手法を確立している。さらに Flint を広く利用するための手段として、ブラウザから実行できるクラウドシミュレーションサービス Flint K3 を提供している。 本研究では、既存の生体シミュレータ Flint および Flint K3 に対して次の2つの拡張を行った。 (1)単一シミュレーションのスケーラビリティ向上(対象:Flint) (2)クラウド環境における複数シミュレーションのスループット向上(対象:Flint K3) 平成28年度は、(1)に関して前年度までの成果を拡張し、より高速かつスケーラブルに実行可能なシミュレーション・プログラムを生成する手法を確立した。具体的な手法は次の2つである。まず、計算の実行順序およびデータレイアウトを自動最適化することで、シミュレーションを高速化した。CPU実行時に最大1.57倍、GPU利用時には最大1.6倍の高速化を達成した。次に、並列実行時における負荷分散を改善し、計算機の実行効率を向上した。16台からなるPCクラスタでの実行時に1.22倍の速度向上を得た。 また(2)に関して、実行前に生体モデルの特徴を解析し、適切な使用計算機数を推定してシミュレーションを実行する機能を開発した。これにより、計算機資源の無駄な利用を削減し、複数のシミュレーションを効率良く実行することが期待できる。
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