開発者が統合開発環境上で行ったソースコード編集操作の履歴を利用したプログラム理解支援の研究を進めた。コード編集において開発者が行うコメントの記述や削除がその前後のコード変更に及ぼす影響や、それらの履歴情報に基づくソースコードやコード変更作業の要約の生成手法について検討を進めた。十分信頼できる結果を導くためには、コメント記述に関する履歴データが不足していると判断し、データ収集のための被験者実験を設計したが、条件を満たす被験者が集まらなかったため、予定を変更し、履歴収集のための被験者実験において問題となることが先行研究で指摘されていた履歴中のプライバシー情報に関して研究を行うこととした。本研究でこれまでに集めた操作履歴データの中から、プライバシー上の問題が発生しうる情報を探したところ、15個中10個の開発プロジェクトにおいて該当する情報が見つかった。それらの中には、開発者やその知人の実名、ハンドルネームの他、所属機関に関する情報やオンラインサービスで用いるIDなどが含まれた。例えば、これらのデータが研究成果のエビデンスとして一般に公開された場合、被験者に予期しない損害をもたらす可能性がある。そこで、これらの漏洩を防ぐためのマスキング手法を考案・実装し、その成果を国際ワークショップで発表した。 さらに、前年度以前から研究を進めていた操作履歴再生器を用いたプログラム変更の理解支援に関する研究結果について論文投稿を行った。過去に行われたリファクタリング操作の理解において、版管理システムに格納されたコード差分情報(改版履歴)を利用する場合と、細粒度な編集履歴を利用する場合を比較した。その結果、それぞれの場合に、変更内容の誤解を招く特定の要因が存在することを発見した。また、再生器を使用することで、被験者が実際に行われたリファクタリングを見過ごす事例が少なくなることを確認した。
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