動物は生存していく上で,環境内の重要な標的(捕食者,獲物,同種他個体など)がもつ運動情報に対して,迅速かつ正確に注意を向けることが必要である。視覚探索課題を用いてヒトとハトを比較した申請者らの先行研究から,個々の刺激の運動情報処理に関しては種間で類似した結果を得た一方で,複数の刺激間の関係性についての認識では顕著な種差を確認した。本研究では,運動する複数の刺激に対する注意の向け方がヒトと他の動物でどのように異なっているのか,その詳細を明らかにし,こうした運動情報処理の生態学的意義について検討した。運動情報の体制化を促す条件に関する検討として、ヒトや他の動物種で体制化が生じる条件でテストをした結果、ハトではこうした条件においても体制化が生じないことが分かった。申請者らによる、静止刺激を用いた知覚的体制化の研究においても、他の動物との比較において、ヒトは全体志向的な情報処理をする傾向が強いことが分かったが、こうした傾向が運動情報が付加された場面においても当てはまることが示された。つまり、実験結果の種差が、実験室の限られた状況だけに当てはまることではなく、各動物種それぞれの生活環境全般において生じていること、認知機能の多様性が示唆されたことを意味しているといえる。
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