研究課題/領域番号 |
26730073
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
神原 裕行 東京工業大学, 精密工学研究所, 助教 (50451993)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 重さの知覚 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ものを持った際に生じる重さの知覚を定量的に検出する実験方法を確立することである。平成26年度はまず、物体を手で保持するタスクを被験者に行わせるため、物体の大きさや質量を任意に調節できる仮想現実空間を用いた実験システムを構築した。実験システムは、物体の視覚情報を表示する大型のディスプレイ、手に物体の負荷力を加える力覚提示装置(SPIDAR-G)、被験者の筋の活動度を計測する表面筋電計測装置(Delsys Bagnoli Desktop EMG System)で構成され、刺激呈示およびデータ計測を同時に行うためのプログラムを開発した。さらに、開発したシステムを用いて、大きさや重さが異なる物体を交互に保持した後に二つの物体の重さの大小を弁別する実験を行った。その結果、大きさが同じ二つの物体の重さの差が25グラム程度でも重さの弁別が正確に行えることを確認した。また、重さが同一でも大きさが異なる物体では重さの知覚に差が生じるという錯覚現象も観測された。このことは、仮想現実空間を用いた実験システムによって、実際に物を持った際と同様の重さの知覚特性が得られることを示している。さらに、手首に作用する筋肉のタスク中の活動を解析した結果、物体を保持する前後の筋活性度が知覚された重さと相関があることが確認された。このことは、運動制御に用いられる物体の重さの情報と、高次なレベルで知覚される物体の重さは独立であるという過去の研究結果とは異なっており、知覚された重さの定量化に筋活性度が利用できることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請時の計画では平成26年度中に[課題1]に関する実験を実施する予定であったが、研究代表者が長期の海外派遣プログラムに参加したため、研究の進展が十分に行えなかった。しかし、信頼性の高い実験システムの構築と予備的実験の実施は行っており、これまでのところ良好な結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は実験システムの開発と予備的実験を実施した。今後は重さの知覚メカニズムの数理モデル化を目指して、以下の三つの事柄を明らかにする心理物理実験を実施する予定である。[課題1]:知覚した重さを口頭で定量化できるかを明らかにする。[課題2]:被験者の重さの予測値を外的に調節できるかを明らかにする。[課題3]:重さの知覚がベイズ推定に従うかを明らかにする。課題1の実験では、物体を保持した際に口頭で答えてもらった重さの定量的数値と、実際に知覚した重さの間に整合性があるかを検証する。その際に筋の活動度も計測し、口頭での答えた重さと筋活動から見た重さの知覚との間に関係性があるかも検証する。また、課題2の実験は、物体の大きさと重さの関係を学習してもらうことで、表示する物体の大きさを調節して持つ前の重さの予測値を変化させられるかを検証する。最後に課題3の実験では、物体の大きさと提示する力の関係が課題2の時とは異なる状況で、物体を持った際に知覚した重さを定量的に回答してもらい、重さの予測値、手に加えた力の値、知覚した重さの間の定量的な関係を調べ、その関係がベイズ推定に基づいたものになっているかそうではないかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験システムの構築のために購入する予定であった力覚提示装置を購入する必要がなくなったため。力覚提示装置は研究代表者が所属する研究室が別の予算で購入した装置を用いた。
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次年度使用額の使用計画 |
力覚提示装置には小型のモータが使用されており、長時間の実験に対する耐久性がない。そこで、連続した実験が可能となるように、モータも含め、力覚提示装置に用いる部品や消耗品を数セット購入する予定である。
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