脳状態によって下側頭葉コラム構造刺激選択性が変化する可能性を前年度検証したところ、コラムの神経活動には状態依存性および非依存性の二成分が混在していることが明らかとなった。しかし、コラム反応の主要成分は状態非依存性成分であることから、コラム構造の刺激選択性の大部分は脳状態に大きく依存せず、コラム構造は維持されていることが示唆された。 この結果を踏まえ、今年度は物体コラム構造を視覚刺激によってではなく、電気刺激を用いて強制的に活動させ、任意の物体情報を動物に認識させることを試みた。電気刺激は物体注視および遅延応答課題を混在させた行動タスクの遅延応答課題時にのみランダムに行った。刺激は最適物体刺激の同定されたコラム構造に対して印加され、ターゲット呈示期間、テスト呈示期間、両期間の3種の刺激条件に対する動物の応答が計測された。刺激に対する動物の応答は刺激コラムによっては無反応の場合も存在したが、半数以上のコラムで動物の反応が得られた。この結果は、電気刺激を用いて人為的に物体コラム構造を活動させることによって、動物に物体情報を送り込むという本研究の目的に適うものであるが、3種の刺激条件で動物の応答が異なっている場合が存在するなど、現状の電気刺激法では動物の応答が刺激コラムに依存するという問題点も同時に指摘するものとなった。下側頭葉において物体像情報は複数のコラム活動の組み合わせによって表現されていると考えられているが、本研究で活性化したコラム構造は一箇所であった。それゆえ、動物に認識された物体像はこちらが意図したものの一部を反映する別の物体像であった可能性が考えられ、その結果、動物の応答が安定しないという問題が発生したと思われる。
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