本年度は,「研究の目的」および「研究実施計画」に記載した達成項目1,3について検討した.具体的には,達成事項1)複雑なシーンコンテキストにおける物体の視認性推定手法の開発,達成事項3)運転者の視覚的注意状況に基づく認知状態推定モデルの構築に取り組み,被験者実験を通じてその有効性を調査した.
達成事項1)については,前年度から引き続き取り組んだ内容である.走行シーンにおいては,周辺車両との位置関係や照明条件等により,注視対象の視認性は時々刻々と変化する.そのため,あるタイミングで撮影された1枚の車載カメラ画像のみから視認性を推定するのではなく,一定区間で撮影された画像系列すなわち動画を用いて視認性を推定する枠組みを検討した.従来にも動画を用いた視認性推定手法は提案されていたが,これは各時点で推定された視認性評価値を平均化するという単純な手法であった.これに対して,本年度は視認性の時系列変化の大小に注目した視認性推定の枠組みを検討し,被験者実験を通じてその有効性を確認した.
達成事項3)についても,前年度から引き続き取り組んだ内容である.まず,車載ステレオカメラを用いて車両前方を撮影し,注視対象を含めた走行環境を3次元計測して得られた距離情報を視認性推定に利用する枠組みを検討した.従来の視認性推定の枠組みでは,車載カメラで撮影された2次元画像を利用していた.これに対して,本年度は,シーンの3次元的な情報つまり注視対象を含めた各構造物までの距離を利用することを考えた.さらに,シーンの見えに関する特徴量として,画像全体からsaliency mapを計算し,前述の画像特徴と併用することを考えた.この手法を被験者実験を通じて評価し,視認性推定の精度が向上したことを確認した.
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