研究課題/領域番号 |
26730110
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
朝尾 隆文 関西大学, システム理工学部, 助教 (10454597)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 運動インピーダンス / パラメータ同定 / カルマンフィルタ |
研究実績の概要 |
人は自分の思い描くとおりにハンドル操作を開始するために,把持力を高めて前腕の筋を緊張させることで,手先の剛性,粘性を高め,運動前に腕の応答を良くしていると考えられる.また,何らかの原因でドライバが異常状態ならば,このような操舵のための事前準備ができていないと考えられる.本研究の目的は,生体電極を使用しない非拘束な状態で,ハンドルの角度とトルクのみから,ハンドル軸まわりに等価な筋の粘弾性係数を推定し,ドライバの操舵意図・状態推定をおこなう基礎技術を開発することである.平成28年度の目的は,時々刻々と変化する粘性係数,弾性係数の推定性能の評価であった.得られた成果を以下に示す. (1)現実の運転場面においては,ハンドルを握る人の筋の収縮の程度によって,時々刻々と粘弾性が変化するが,その真値を知ることは困難である.そこで,ロボット工学の分野で用いられるインピーダンス制御により粘弾性をステップ状に変化させ,それを粘弾性の真値とした.計測で得られたハンドル角度とトルクからカルマンフィルタで粘弾性を推定し,真値の変化に対する推定値の立ち上がり時間,整定時間を評価指標とした.真値の大きさに依存はするものの,立ち上がり時間は約0.1秒,整定時間は約0.2秒であり,良好な追従性,応答性であった. (2)次に,実際に人がハンドルを握った状態で力んだり弛緩したりを繰り返した場合に,その変化が捉えられるかの検証実験を実施した.前項で実施したインピーダンス制御によるステップ応答のように明確に粘弾性が変化した訳ではなかったが,力みのタイミングに同期した粘弾性の上昇がみられ,人の操作に対しても提案する手法で推定できていることを確認した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粘性係数,弾性係数を推定するためには,ハンドルに外乱トルクを印加し,微小な変位を生じさせる必要がある.そこで初年度に製作したステアリングシステムにおいて,擬似白色信号による微小な摂動トルクをハンドルに印加した.その際,パラメータが既知のおもり,ばねをハンドルに取り付け,その慣性モーメント,弾性係数を同定することを目的とした.しかしながら,ばねを取り付けることによりシステムが固有振動数を有してしまい,計測したデータの白色性が損なわれたため,推定精度が悪くなるという問題が生じた.しかしながら,固有振動数成分が除去できる帯域除去フィルタ処理を計測データに施せば,推定精度を向上させることが可能となった. 現実の運転場面においては,人がハンドルを握った状態での固有振動数を事前に知ることは困難である.そこで,前述の問題を解決するための別の方法として,従来研究を参考にPID制御によりハンドル位置を微小に変化させることにより,微小摂動を生成する方法を用いた.その結果,良好に慣性モーメント,弾性係数を推定することができた. 上述のとおり,ハンドルに印加する摂動を調整することに時間を要したが,おおむね順調に進展していると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の実験よりも,より現実場面に即した状況での検証をおこなう.すなわち,ヒトのハンドル操作によるトラッキング実験をおこない,ハンドル操作時に人はどのように粘弾性を変化させているのかを調査する.なお,ハンドルを握る力が緩いと筋に由来する粘弾性がハンドルに伝わりにくくなり,本研究で提案する手法では正しく粘弾性が推定できない可能性がある.したがって,現有の把持圧計測用グローブを用い,操舵時のヒトの把持力の特性を明らかにする実験をおこなう必要がある.計測で得られるハンドル角度,把持力の分布を時系列で比較することにより,操舵時にヒトはどのようにハンドルを握る力を変化させ,その結果としてハンドルに対する粘弾性をどのように調整しているのか,その制御方策を解明する.
|