研究課題/領域番号 |
26730119
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平山 高嗣 名古屋大学, 情報科学研究科, 特任准教授 (10423021)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 注視行動 / 視覚的注意 / 認知状態 / 技能 / 熟達 / データマイニング |
研究実績の概要 |
人間が事物をどのように見て理解するかという高次認知に関わる注視行動のクセやコツを計算機が認識できれば,その知識を応用したGaze Based Human Computer Interactionがユーザに自己や他者の潜在的な高次視覚能力への気づきを与え,人間を新しい視覚世界へと導くことを期待できる.そのためにはまず,人間の認知状態と注視行動との間の複雑な関係を解きほぐす必要があり,その鍵が視覚環境ダイナミクスであると考えている.本研究では,①視覚環境ダイナミクスと視線ダイナミクス間のイベント共起構造を記述する計算モデルの設計,②データセントリックアプローチによる注視行動のクセ・コツの抽出,③大規模な被験者実験を通じた評価,さらにはクセ・コツの生成シミュレーションの実現を目指す. 平成26年度は,サッカーの試合映像を視聴する状況において,映像シーンに対する視線パターンの依存性を指導の熟練者と未経験者との間で比較することで,熟練者に特有な注視行動を抽出する手法を提案した.まず,映像と視線運動データそれぞれに短時間のダイナミクスを考慮した階層型クラスタリングを適用することで,映像シーンと視線パターンがデータ駆動的に分類された.そして,注視行動のコツを抽出する尺度として,映像シーンごとに表出された視線パターンの表出頻度とその独自性が熟練者と未経験者との間で分析された.その結果,視聴後のインタビューに対する熟練者の回答内容に合致する注視行動が抽出され,各尺度について同様の基準を満たす8パターンの注視行動が映像の時間長に対して10%程度の割合で抽出された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は,視覚を必要とするタスクにおける注視行動のクセを,特定の映像シーンへの依存性が高く,個人内で頻出する視線パターンと定義し,分析対象データの計測,分析アルゴリズムの設計,データからの注視行動のクセの抽出に注力することを計画していた.しかし,個人差および共通性についての関連研究の調査や関連研究者との議論を通じて,クセの定義の妥当性に疑問が生じている.その一方で,コツは熟練者と未熟者との間の差異に基づくため,より明確に定義することが可能である.そこで,当初の計画を変更し,未熟者に対する熟練者の注視行動の独自性を測る尺度として,文書検索で各文書の特徴として一般的に用いられる逆文書頻度(Inverse Document Frequency: IDF)を拡張し,熟練者クラスと未熟者クラスそれぞれで表出される注視行動のIDFのクラス間差分(Difference between classes in IDF: DBC-IDF)を提案した.そして,従来研究においてサッカーの試合映像の視聴実験で計測した指導熟練者と未経験者の視線運動データにこの尺度を適用することで予備的な評価を行い,注視行動のコツを抽出することができる可能性を示した.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,注視行動のクセが表れ,コツを必要とし,多様な視覚環境ダイナミクスの計測と熟練者,未熟者共に多量の視線運動データの計測が可能な状況を検討し,視覚環境の視聴実験のための映像の撮影と少人数の長期的な被験者実験を設計,実施する計画を立てていた.今後の大規模なデータでの提案アルゴリズムの評価を念頭に置き,平成27年度は継続的な被験者実験を設計,実施する計画である.また,視覚環境データ(映像)と視線運動データそれぞれに階層型クラスタリングを適用し,データ駆動的にパターン分類を行っているが,現状では注目する階層を経験的に定めている.階層はパターンの時空間粒度をコントロールするパラメータであるため,その変化に対して抽出される注視行動の差異を分析する必要があり,それによって視覚環境と視線のダイナミクス間のイベント共起構造分析を達成することができると考えている.これらに並行して,クセの定義について議論を深め,その抽出にも対応したアルゴリズムへの拡張を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は,現有の実験用機器とデータを用いた予備的な実験を行ったため,データ計測とデータ処理のために計上していた経費分が平成27年度に繰り越される形となる.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は,最終年度に向けての大規模なデータでの提案アルゴリズムの評価を念頭に置き,継続的な被験者実験を設計,実施し,データ処理環境を整備する計画である.また,得られた成果の国内外の学会での発表や論文誌への投稿を予定している.
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