最終年度では「文書の構造処理」、「高速なK-best構造予測アルゴリズム」、「低次元埋め込みモデル」に関する研究を行った。 「文書の構造処理」では文書を修辞構造木と呼ばれる構造に変換する技術について研究を行った。これは文書要約や文書データマイニングなどに応用される。この課題では文書のような長い系列を効率的に処理する仕組みが必要とされるため、統計モデルの特徴量表現をハッシュ化し、また、探索中に発生する冗長な解をハッシュ法で取り除く技術を開発した。その結果、英語の新聞記事に対する修辞構造木を精度の低下なく平均0.05cpu秒で解析することを可能とし、文書要約システムの高速化に大きく貢献した。 「高速なK-best構造予測アルゴリズム」では文の句構造や文書の修辞構造解析の最適な上位K個の解を高速に求めるアルゴリズムを考案した。信頼性の高いK個の解を高速に求めることで、機械翻訳や文書要約などの精度や速度向上を可能にする。ここでは分枝限定法をK-best構造予測問題に応用することで高速化を可能にした。 「低次元埋め込みモデル」では知識グラフなどのラベル付き有向グラフを低ランク近似するための分解法について理論的な分析を行った。知識グラフは情報抽出、セマンティックウェブ、質問応答などへの応用が期待されている。低ランク近似モデルでは知識グラフをそのentityやrelationに関する行列に分解し、低次元ベクトルに埋め込んだ上で、内積などのベクトル演算を使ってentity間のrelationをスコア化する。このスコアは単純にはリンク予測問題に使われ、情報抽出や質問応答にも拡張することができる。ここでは複素数を使った埋め込み法が従来法と比較して、低次元、高速、かつ、高精度であることを理論的に分析した。
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