本研究では利用者に新たな発見を促す書架排架法の構築を目的に、人の書架探索時の知覚を調査する実験を行ってきた。平成26、平成27年度は主として実験室環境下で、書架の排架方法や図書のデザインが人の視線軌道・注視時間に与える影響を明らかにしてきた。 平成28年度は、1) 平成26-27年度と同様の実験室環境下における図書の排架順と視線軌道の関係に関する実験、2) 平成27年度から開始した図書のデザインと注視時間の関係に関する実験の継続、3) 新規の実験として、実験室ではなく実際の図書館環境下における対象物等と注視時間の関係実験、の3種類の実験を行ってきた。 これらの実験から明らかになった主な事項は以下のとおりです。1)の実験より、図書が分類順に並んでいる状況で、さらに請求記号ラベルを貼り付けたり、図書の分類ごとに色の異なるシールを貼るなど、なんらかの順で分けられて並んでいることを示すサインを追加した場合も、視線軌道の動きはタイトル順やサインのない書架と変化しない。2)の実験から、図書の色はある程度、同系色の図書を集中して排架した場合には注視時間に影響し、黒などの暗色は注視時間が短くなる傾向が見られた。ただし、図書の色以上に排架位置が影響する可能性が示唆された。3)の実験から、図書館内でブラウジングや検索行動を行う利用者は、書架の上部(1-4段目)の閲覧に書架注視時間の80%を費やしており、下部の書架はほとんど閲覧していないことがわかった。 一連の実験から、排架順や図書の色以上に、利用者の注視行動に最も影響するのは書架上の図書の位置であることが示唆された。ここから、例えば特徴的な、「思わぬ発見」と利用者に印象づけるような図書を、書架上部に配置することが新たな発見を促す上で効果的であること等が推測される。
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