研究課題/領域番号 |
26730182
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
酒向 慎司 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30396791)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 演奏表情生成 / 楽譜追跡 / 隠れマルコフモデル / 条件付き確率場 |
研究実績の概要 |
本研究では、楽器演奏における個人性を演奏データそのものから獲得し、その演奏スタイルを再現(転写)する自動演奏生成技術と、その演奏データを自動作成するための楽譜と音響信号の楽譜アライメントの二つに焦点を当てて取り組む。この研究の狙いは、豊かな個人性を備えた演奏生成システムを、人手による演奏特徴の抽出や規則の作りこみを伴わず、一定の実演奏データから半自動的に学習可能な枠組を実現することである。また、このような演奏生成システムには大規模な実演奏データベースが不可欠であるが、電子楽器のように演奏情報の取得が容易なものだけでなく、音響信号から演奏情報を直接取り出すことができれば、電子楽器に限定されない様々な楽器について自動演奏生成技術を対応させることができる。初年度である平成26年度では、これらの主要な二つの研究課題について、演奏生成モデルの高度化に取り組むと共に、演奏生成モデルの持つ音楽的意味について演奏生成モデルの可視化と演奏者の違いの指標化という二つの観点で有意義な成果を出すことができた。後者の場合では、演奏生成モデルが統計量として備えている演奏スタイルの違いが、人間が知覚する演奏者の違いを的確に表しているかという観点で実験を行った。また、楽譜アライメントに関する取組では、これまでに提案してきた条件付き確率場(CRF)による楽譜追跡手法を拡張し、音高変化の特徴に加えてより積極的に楽譜情報を用いることにより楽譜追跡の精度を改善する手法について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
演奏生成に関する手法では、最適なモデルを学習するための実験を行い、従来では実施できていなかった大規模な評価実験を実施し、コンピュータ音楽に関するトップカンファレンスであるSMCにて成果発表を行うことができた。また、演奏生成モデルの持つ音楽的意味に関する有意義な成果を得ることができた。本提案における演奏生成モデルは、演奏者の特徴を統計的にモデル化したものであり、モデル間の比較を行うことで演奏者間の分析を行うことができると考えられる。演奏から人が感じる演奏者の違いという主観的な指標に対して、本提案のモデルは部分的ではあるが類似性を示す結果を得ることができた。 また、楽譜追跡における取組では、他の研究機関も含めて一般的な楽譜追跡では楽譜情報が既知でありながら楽譜の持つ音楽的な意味のある情報が十分に活用できていなかった点に着目し、特定のパート(具体的には打楽器)に応じて音響的な特徴の変化を区別できるような仕組みをCRFによって実現する手法について検討した。ポピュラー音楽データベースを用いた実験では、従来の楽譜情報に基本的な音高情報しか用いない場合とパート間の情報を考慮した場合を比較し、提案法が有意に改善することが示された。初年度の取り組みではそれぞれの課題で一定の成果を出すことができ、対外発表は論文投稿などに繋がり全体としては概ね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、主要な二つの課題について従来手法の深化と改善手法について検討を行うと共に、特に楽譜アライメントの精度向上に力点を置き、これまでの研究で対象としていた演奏スタイルだけでなく楽器の多様性にも頑健なアライメント手法について取り組みを進める。そのため、これまでに提案してきた自動アライメント手法では経験的に作成していたスペクトルテンプレートを、入力される音響信号に合わせて動的に変化させる手法を検討する。具体的には、楽譜追跡の結果を元に、入力信号スペクトルのスパースNMF (non-Negative Matrix Factorization)によって得られる基底行列に基づいてテンプレートを逐次更新する。このようにして、追跡対象の楽器の倍音構造によりマッチしたテンプレートへと逐次的に適応させ、あらゆる楽器に対応可能な手法を検討する。多様な楽器から演奏データの自動作成手法を確立することで、演奏生成モデルをピアノ以外の多数の楽器に展開することができる。
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