本研究では、楽器演奏における個人性を演奏データそのものから統計モデルとして学習し、その演奏スタイルを再現(転写)する表情付き演奏の自動生成技術と、その演奏データを自動生成するための楽譜と音響信号との同期(楽譜アライメント)の二つに焦点を当てて研究に取り組んだ。これらの研究の狙いは、豊かな個人性を備えた自動演奏システムを、人手による演奏特徴の抽出や規則の作りこみを伴わず、一定の実演奏データから半自動的に獲得する枠組みを実現することである。また、このような演奏生成システムには大規模な実演奏データベースが不可欠であるが、従来技術では電子楽器のように演奏情報(鍵盤楽器であれば打鍵タイミングや強弱などの数値情報)が容易に取得できるものに限られてしまう。音響信号から演奏情報を直接取得することができれば、電子楽器に限定されない多様な楽器に対応した自動演奏生成を実現することが可能となる。表情付き演奏生成技術については、再現性の改善などの演奏生成モデルの高度化に取り組むとともに、演奏生成モデルを介した人間の特徴的な演奏の自動分析や可視化が可能であることを示した。演奏追跡技術については、主に楽譜アライメント技術の高度化について取組み、基本的な音符系列の情報だけでなく演奏上重要と考えられる楽器種やメロディパートといったより高次な楽譜情報を活用することで、従来のリアルタイム性能を維持しつつ演奏追跡性能を向上させることができることを示した。また、楽譜アライメント技術を応用した自動伴奏システムについては企業との共同研究を行い、ピアノ演奏に同期して緩急のついたダンスを踊るロボットの開発を行い、その成果は国際ロボット展に出展され好評を博した。その他には、演奏生成技術に関わる人間の楽器操作に関連する研究としてバイオリン演奏時における熟練度に対応した運指推定の研究を行った。
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