研究実績の概要 |
脱窒は、環境中の反応性窒素をN2に変換する微生物反応である。脱窒速度の定量には、これまでアセチレン阻害法や15Nトレーサー法が利用されてきた。しかし、これらはアセチレンや窒素により系が撹乱され、脱窒速度が過少・過大評価されることが指摘されている。 本研究では希釈法による脱窒測定を提案した。希釈法(15Nガス希釈法)では、あらかじめ15N標識N2ガス(15N-N2)を添加した気相中の15N存在比が、水-土壌中の脱窒により発生する14N-N2により減少する(希釈される)ことを利用するため、土壌を撹乱することなく脱窒速度を推定できる。 バイアルでの15Nガス希釈法を確立するために、使用するバイアルの気密性の検討を行ったところ、数日間であれば大気中N2ガスのバイアル中への混入がないことが確認された。そこで、硝酸を除去した土壌スラリーに、種々の濃度の15N-NO3-(トレーサー法)および14N-NO3-(希釈法)を添加して、それぞれ14N-N2雰囲気および15N-N2雰囲気で培養を行った。気相の質量数28, 29および30のN2濃度から脱窒速度を求めたところ、低濃度NO3-条件では希釈法により得られた脱窒速度はトレーサー法に比べ過大評価となった。一方、高濃度NO3-条件下において15N2ガス希釈法により得られた脱窒速度は、トレーサー法より高いものの、低濃度NO3-条件よりはトレーサー法に近い脱窒速度を推定できた。 希釈法で得られた脱窒速度がトレーサー法によるそれよりも高い理由は、若干のN2の混入に加えて、トレーサー法では窒素固定も含めた正味の脱窒速度が測定されているのに対し、希釈法では窒素固定の影響を除いた純脱窒速度が推定されているためと考えられる。本研究で検討した高濃度NO3-条件は自然環境では見られないため、高窒素施肥を行う農業土壌における脱窒速度の推定に適していると考えられる。
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