研究課題/領域番号 |
26740006
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研究機関 | 公益財団法人海洋生物環境研究所 |
研究代表者 |
池上 隆仁 公益財団法人海洋生物環境研究所, 中央研究所, 研究員 (70725051)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放散虫 / 北極海 / 海氷減少 / ボーフォート循環 / セジメントトラップ / 動物プランクトン / 海洋生態系 / 温暖化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、劇的な海氷減少が進行している北極海の海氷下の環境変化をモニターし、多様な骨格構造を持つ放散虫群集の環境指標としての有用性を明らかにすることである。 本年度は、季節海氷域である西部北極海においてセジメントトラップにより捕集した海洋沈降粒子試料(2010年10月から2012年9月までの2年分)および多層曳きプランクトンネットにより採集したプランクトン試料(2013年9月採集分)について放散虫群集解析を行った。 ノースウィンド深海平原の観測点NAPにおける海洋沈降粒子試料から、北極海放散虫群集の生産量および種組成は主に海氷密接度の季節変動に伴う表層水塊の変化に対応して変動していることが分かった。西部北極海の海氷下における放散虫群集の季節・経年変化を連続的に示すことができたのは本研究が初めてである。また、ノースウィンド深海平原とカナダ海盆域のプランクトン試料の比較から、各海域の水塊に特徴的な種を明らかにした。観測点NAPにおいて、2012年夏には2011年夏に比べほとんどの放散虫群集で生産量が減少する一方で、カナダ海盆域表層水塊に優占する群集については生産量が増加していた。このことは、海氷減少によるボーフォート循環強化とそれに伴うカナダ海盆域表層水塊の拡大を反映していると考えられた。以上のことから、海氷減少による海流や水塊の変化に対し、放散虫群集が有効な指標となることが示唆された。 以上の研究成果は既に国際誌に発表済みである。また、海外の研究協力者との情報交換のため、国際会議に参加し、今後の打ち合わせと口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、本年度に海底表層堆積物試料および表層プランクトンネット試料の解析を行う予定であったが、試料の入手が予定よりも遅れた。そのため、翌年度以降に予定していたセジメントトラップ試料および多層曳きプランクトンネット試料の解析に先に着手した。放散虫群集の季節・経年変化に生息深度の情報を加えることで、北極海の各水塊の指標種を特定することができた。また、本研究で特定した環境指標種を、並行して進めていたベーリング海の放散虫生層序および古海洋環境変動の研究にも応用することができた。 放散虫群集の北極海環境指標としての有用性について新たな知見が得られたことから、当初の目標に向けて研究がおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度着手できなかった海底表層堆積物・表層プランクトンネット試料を解析し、放散虫骨格構造の水平分布と北極海各地の環境との対応を明らかにする。放散虫骨格構造の水平分布については、北極域の放散虫群集に造詣の深いオスロ大学地質博物館のBjorklund教授と協力して研究を進める。 ノースウィンド深海平原の観測点NAPの3年目、4年目のセジメントトラップ試料の解析に加え、チャクチ深海平原の観測点CAPのセジメントトラップ試料の解析にも着手する予定である。観測点NAPの試料から本年度の研究成果も踏まえて、経年変化をモニターする。観測点CAPの試料からは、東シベリア海からの水塊の影響と放散虫群集との関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の使用計画では、本年度に倒立型顕微鏡と顕微鏡用デジタルカメラを購入予定であったが、所属研究機関の変更により、移転先の設備を当面使用可能となった。そのため、本年度は倒立顕微鏡および顕微鏡用デジタルカメラを購入せず、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度着手できなかった放散虫骨格構造の水平分布について本格的に着手するため、分析のための消耗品等の購入および分析補助者の雇用を行う。海外を含む他の協力研究機関との打ち合わせや国内学会および国際学会参加のための旅費を計上する。成果報告のための英文校閲費、論文投稿料、および別刷り代を計上する。
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