本研究の目的は、劇的な海氷減少が進行している北極海の海氷下の環境変化をモニターし、多様な骨格構造を持つ放散虫群集の環境指標としての有用性を明らかにすることである。前年度までに、時系列セジメントトラップとプランクトンネットを用い、放散虫群集の生産量の季節・経年変化と海氷の消長に伴う水塊や海流の変化との対応関係、生息深度分布と水塊の鉛直構造との対応関係を明らかにしてきた。また、放散虫骨格のマイクロフォーカスX 線CT(MXCT)撮影を行い、新種記載に耐えうるほどの精密な放散虫骨格3次元モデルの構築に成功した。 平成28年度は、北極海の主要な放散虫群集の骨格を拾い出し、MXCT撮影を行った。撮影で得られた3次元モデルから放散虫骨格の体積を計算し、放散虫骨格のシリカ重量を計算したところ、主要な放散虫群集のシリカ重量のみで、海洋沈降粒子の生物源シリカ重量のうちの約10%を占めることを明らかにした。また、ノースウィンド深海平原の観測点NAP及びチャクチ深海平原の観測点CAPにおいて、2012年10月から2013年9月の1年間にセジメントトラップにより捕集された海洋沈降粒子試料の放散虫群集解析に着手した。観測点CAPでは観測点NAPと比べて海盆域に生息する放散虫群集の割合が低く、開放水面期間の生産量も低いことが分かった。観測点NAPとCAPの水塊の違いと上記の放散虫群集組成および生産量の関係について論文を発表準備中である。2016年9月にIndustriskjell AS社の調査艇KNUTとトロムソ大学の調査艇Hyasを利用してノルウェー西岸フィヨルドのプランクトン試料採集を行い、得られた試料について解析を進めている。ASIW2016にてオスロ大学との共同研究を含むこれまでの研究成果について講演を行った。オスロ大学の運営する放散虫データベースにおいて本課題で得られた成果の一部を紹介した。
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