人為的活動起源トリウムの雲粒核形成に関する季節性と、そのメカニズムを調べるために、降水試料およびエアロゾル試料を採取し、降水試料中の微量金属元素濃度およびトリウム同位体比を分析した。 春季および夏季に採取した降水試料の微量金属元素フラックスの内、トリウムについては、降水フラックスとの間に高い相関が見られた。また、因子解析の結果、トリウムについては、アルミニウムや鉄などの土壌粒子とは異なる起源の存在が示された。また、降水試料中の全トリウム濃度に対する溶存態トリウムの割合が比較的に高い(20~30%)という観測結果から、溶存態フラクション中のトリウムの起源は、土壌からの溶解よりも工業過程等を経てより溶解しやすい形態であったことが考えられた。これらの結果は、人為的活動起源のトリウムを含むエアロゾルが雲粒核として働き、水蒸気を凝結させて降水にまで発展したことを示唆している。後方流跡線解析による空気塊の起源推定の結果、降雨をもたらした空気塊は、東アジアの広域を通過して日本の東岸へ到達していた。春季の降雨について、1時間おきに降水試料を採取してトリウム濃度を測定したところ、トリウム濃度の変動は25%の範囲に収まった。降雨をもたらす雲の下に存在するエアロゾルが、雨水の降下に伴って除去されるウォッシュアウトによって除去される場合、エアロゾルに含まれていた元素の降水中の濃度は、時間の経過に伴って減少する。観測結果は、トリウム濃度の時間変動が小さく、レインアウトによってトリウムが除去されていることを示した。
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