研究課題/領域番号 |
26740021
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
富田 純平 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 放射線管理部, 研究員 (70637280)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ラジウム同位体 / 低塩分地下水 / 内部被ばく / 大容量水試料分析 |
研究実績の概要 |
本研究は、飲料水中のラジウム(Ra)摂取による内部被ばく評価と低塩分領域におけるRa同位体挙動、特に、近年諸外国見出されているRa-226を高濃度(1Bq/L以上)に含む低塩分地下水が日本に存在するか否かを明らかにすることを目的としている。低塩分領域におけるRa同位体挙動を明らかにするためには、高精度の測定データが必要であるが、低塩分地下水の大部分は、Raが非常に低濃度であると考えられるため、その測定は非常に困難である。 そこで、平成26年度は、低塩分地下水中の低濃度Ra同位体の分析法について検討した。低濃度のRa同位体(Ra-226及びRa-228)を簡便かつ精度よく測定するために、大容量水試料(170 L)から回収したRa同位体をγ線スペクトロメトリーにより定量する手法を選択した。具体的には、まず現地において、Powdex樹脂を用いたバッチ法により大容量水試料からRaを回収して容量を削減する。その後、実験室においてRaを吸着した樹脂を乾燥・灰化し、その灰試料を硝酸に溶解し、Ra同位体を硫酸バリウム(BaSO4)共沈法により回収するという手法である。本手法を確立するために、Powdex樹脂へのRa同位体の吸着特性を確認したところ、水試料の電気伝導率からRa同位体の回収に必要な樹脂量が算定できることがわかった。また、既知量のRa同位体を170 Lの水に添加し、本手法の妥当性を確認した。 上記分析法の開発と並行して、茨城県内15地点において、湧水・地下水試料を採取した。これらの試料については、水試料40 Lを用いて、通常のBaSO4共沈法によりRaを回収した。Ra-226と娘核種の放射平衡が成立後、Ra同位体濃度を測定する予定である。また、Raの地下水への供給メカニズムや岩石-水反応について検討するために、露頭(6地点)から岩石試料を採取した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、大容量水試料中の低濃度Ra同位体分析法の開発及び茨城県内における湧水・地下水及び岩石試料の採取を実施した。まず、Ra同位体分析法については、現地前濃縮に用いる樹脂へのRa吸着挙動(Ra同位体の回収に必要な樹脂量の推定法)及び分析法の妥当性について検討した。まず、Ra同位体を比較的高濃度に含む温泉水を採取し、Ra濃度を値付けした溶液を作成した。次に、その溶液を用いて既知量のRaを含む溶液を作成して中性とし、異なる樹脂/溶液比で樹脂を入れ、電気伝導率(EC)と樹脂/溶液比の関係及びそのときのBa及びRaの樹脂への吸着量を調べた。その結果、水試料の電気伝導率を測定するのみでRaを定量的に回収するために必要な樹脂量を推定できることがわかった。本研究では、Ra同位体の分離・回収をより簡便にするために、Raを吸着させた樹脂を灰化し、BaSO4共沈によりRaを回収する方法を選択した。本手法の妥当性を評価するために、精製水170 Lに既知量のRaを添加し、分析を行った。その結果、得られたRa濃度は、添加したそれと放射能測定誤差範囲(1σ)内で一致し、その妥当性が評価された。なお、本手法では、分析工程においてRaを損失することがほとんどないと考えられるので、回収率を100%とみなした。また、Ra分析法の開発と並行して、茨城県内において、湧水(9地点)、地下水(6地点)及び岩石試料(6地点)を採取した。水試料中のRa分析では、試料40 Lから通常のBaSO4共沈によりRaを回収した。放射平衡成立後、測定を実施する予定である。 当初の予定においては、平成26年度は、大容量水試料中の低濃度Ra同位体分析法を確立すること及び茨城県内で地下水・湧水及び岩石試料を採取することを計画していたことから、本研究は概ね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、大容量水試料中の低濃度Ra同位体分析法の開発及び酸化的な環境に胚胎する地下水・湧水を採取した。分析法については、概ねその妥当性が評価されたが、より普遍的な手法とするため、Raの収率補正法について更なる検討を行う。試料採取については、平成27年度は、主に還元的な地下水に焦点を当て、採取・分析する。また、地下水中のRa濃度は、岩石との接触時間にも影響されると考えられるので、比較的古い(滞留時間が長い)と考えられている低塩分地下水の採取・分析も行う。一方、低塩分領域におけるRa同位体挙動の理解を一層深めるために、これまでに報告してきた汽水環境(全溶存イオン濃度の総和(TDS)が1 g/L以上)のRa同位体データと飲料水に用いられる低塩分地下水の中間となるTDSを有する地下水(主に単純温泉)も採取・分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費については、物品が当初予定していたよりも安く購入できたため差額が生じた。また、今年度の試料した湧水・地下水が宿泊をせずに実施できたこと及び研究協力者との打ち合わせが電話及びメール等で満足できたことから旅費が大幅に削減できた。また、岩石試料の採取については、専門業者及び専門家の協力を必要としなかったため、謝金は発生しなかった。試料も車載可能であったため、その他の経費(運搬費)も使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
測定結果の議論を促進するために、今年度購入予定の化学種計算ソフトを充実させる。また、諸経費を還元的な地下水採取の確実な実施のために使用し、データセットの品質をより向上させる。
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