放射線に誘導されるDNA二重鎖切断(DSB)は、DNA修復機構によって修復される。増殖中の細胞においては、DSBが速やかに修復されなければ増殖死を引き起す。高LET(線エネルギー付与)の放射線である重粒子線によって発生したDSBはDNA修復されにくく細胞死が誘導されやすいことを、これまで我々は報告していた。休止中の細胞においては、修復効率は極めて遅いものの、重粒子線によるDSBであっても、ゆっくりと修復されていることが分かった。本課題において、その遅延型DNA修復にはユビキチンリガーゼであるRNF8が必須であることを我々は明らかにした。遅延型DNA修復は、DNA損傷センサー因子ATMによるRNF8のリン酸化が必要であり、RNF8は53BP1をDNA損傷部位にリクルートすることで遅延型DNA修復に関わっている。この修復経路は、DNA-PKcsとXRCC5が必須でありながらATMのキナーゼ活性に依存し、またRNF8のリン酸化にMDC1を介さないという特徴を持ち、これまで報告されてきた主要なDNA修復経路「相同組換え」「非相同末端結合」どちらとも異なるユニークな経路であることが本研究で明らかにされた。がん細胞のRNF8を発現阻害すると、重粒子線に対する感受性が高まることから、RNF8依存性の遅延型DNA修復経路は休止中の細胞の放射線抵抗性の原因となっていると考えられる。またこの修復経路は、低LET放射線であるX線においても高線量照射後に働くことから、治療後の再発の原因の一つと考えられ、ユビキチンリガーゼ阻害剤は放射線治療の再発予防剤として有効であることが示唆された。
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