メチル水銀は脳に作用し、運動障害や知覚障害を引き起こす。メチル水銀による脳機能障害には酸化ストレスが関与すると考えられているが、詳細なメカニズムは調べられていない。本研究では、(1)メチル水銀による活性酸素種(ROS)生成メカニズムを明らかにし、さらに、(2)メチル水銀暴露マウスの脳部位特異的な酸化を、核磁気共鳴画像法(MRI)により測定することにより、メチル水銀が惹起する酸化ストレスによって生じる脳機能障害のメカニズムの解明を目指した。 神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を臭化エチジウム存在下で培養することによりミトコンドリア欠損細胞(ρ0細胞)を作製した。ρ0細胞は、ミトコンドリアDNAが大きく減少しており、ミトコンドリア呼吸鎖活性が低く、酸素消費量が低下していた。ρ0細胞をメチル水銀で処置したところ、SH-SY5Y細胞と比較してROS産生量が低く、また、メチル水銀毒性に耐性を示した。従って、メチル水銀による神経毒性には、ミトコンドリア由来のROSが関与することが明らかとなった。 次に、メチル水銀投与マウスで生じる脳内酸化ストレスを解析した。メチル水銀を3週間投与したマウスに3-ヒドロキシメチルプロキシルを投与し、MRIによりT1強調画像を撮像した。T1強調画像のシグナル強度は、vehicle群と比較してメチル水銀投与群で低く、脳内が酸化条件にあることが明らかとなった。特に、大脳皮質運動野、体性感覚野、聴覚野、海馬が酸化を受けていることが示唆された。 本研究では、メチル水銀により産生されるROSの本態の一端を明らかにした。今後、部位特異的に産生するROSと行動異常との相関を解析し、メチル水銀による酸化的神経障害メカニズムの全容解明を目指す。
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