環境変動下において、種の分布モデルを用いて将来の分布変化を評価するアプローチが盛んにおこなわれている。しかし、生物間関係が考慮されていないことも多く、正しい評価ができていない可能性がある。そのために、平成26年度に寄主植物の分布を考慮したチョウ類の分布モデルを構築し、分布推定における環境要因とともに生物間関係の重要性を示すことに取り組んだ。その結果、全体としてみると、日本におけるチョウ類の分布規定要因としては気候要因の影響が大きいことが示され、土地利用の効果も一定の割合で見られた。さらに、種によっては寄主植物の影響が比較的大きいことが示唆された。寄主植物の分布は推定値を用いているため結果の解釈には注意を要するが、生物間関係を考慮することの重要性が示唆された。 そこで、本年度はこの分布モデルを用いて、環境変動下におけるチョウ類の分布変化の予測をおこなった。今回の予測では、気候要因のシナリオとして年平均気温の上昇、土地利用変化のシナリオとして農地の減少と都市の増加を考慮した。22種を解析した結果、気温上昇を組み込んだシナリオのほうが分布域の変化により大きな影響を与えることが示唆された。気温の上昇は種によって分布域の増減のいずれにも影響を及ぼすことが示唆されたが、山地性の種ではより大きな分布域の減少が予測された。
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