研究課題/領域番号 |
26740030
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
仲山 慶 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 講師 (80380286)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 免疫毒性 / 環境毒性学 / 細菌感染症 / 農薬 / 抗炎症薬 / 慢性毒性 / Aeromonas / Edwardsiella tarda |
研究実績の概要 |
本研究は魚類を対象に,病原体感染時の免疫系の活性化に対する化学物質の影響を解析し,感染症の発症に対する化学物質のリスクを評価する手法を構築することを目的としている。 平成26年度は,魚類免疫学において比較的研究が進んでいるコイを対象魚種とし,細菌を人為的に感染させた状態で化学物質の急性暴露を行い,免疫応答の解析を行った。感染実験には病原細菌Aeromonas veroniiおよびEdwardsiella tardaを用いた。暴露物質には免疫毒性を有することが報告されているジクロルボスおよび免疫抑制作用を有する合成糖質コルチコイドのうちプロピオン酸クロベタゾールを選択した。なお,細菌感染は腹腔内への接種で行い,化学物質の暴露は接種直後から開始した。 A. veroniiの感染から3日および5日後ではコイの頭腎重量および頭腎中の白血球数の有意な増加が観察され,7日目にはこれらの影響は収束する傾向にあった。一方,A. veronii感染魚にプロピオン酸クロベタゾールを暴露したところ,感染3日後には顕著な免疫応答が観察されたが,5日後には応答が抑制され,プロピオン酸クロベタゾールの抗炎症作用に依るものと推察された。 E. tardaの感染によっても同様に頭腎重量および頭腎中白血球数の増加が観察されたが,感染魚に亜致死レベルのジクロルボスを暴露しても斃死および免疫応答への影響は観察されなかった。これらのことから,先行研究で指摘されているジクロルボスの免疫毒性は,致死レベルに近い暴露濃度でのみ生じる影響であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細菌感染による免疫刺激をした条件下でのコイの免疫応答,とくに白血球の活性測定等の実験系は順調に構築しつつあり,化学物質の暴露によるこれらの免疫応答の変化を検出することが可能となっている。当初は農薬であるジクロルボスのみを使用する予定であったが,生理活性が明確な合成糖質コルチコイドを用いたことで,実験系の妥当性を確認することができた。 他方,解決すべき問題点も明確になっている。本研究では細菌の接種による感染症の発症を表現型のエンドポイントとして設定しており,斃死を発症と見なしている。しかしながら,これまでに使用した細菌種では接種部位の発赤や脱鱗のような明確な外観症状は現れるものの,再現良くコイの斃死を誘発できていない。追加で複数の細菌種を用いることを検討する。
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今後の研究の推進方策 |
細菌性感染症の発症を再現良く誘発できる感染実験系を構築する。現状では,A. hydrophilaおよび連鎖球菌症の原因菌数種を追加する準備を進めている。感染実験の最適化と並行して,白血球の分離を必要としない貪食活性の簡易測定法を構築する。その上で,予め化学物質に暴露された個体を対象に感染実験を実施する。今年度は,免疫毒性に関する報告があるピレン等多環芳香族炭化水素を暴露対象物質とする。急性暴露にて感染症の発症率を上昇させる化合物については,慢性暴露を実施し,同様に感染症の発症および免疫応答に対する影響を解析し,免疫毒性が生じる暴露物質濃度の閾値を求める。また,細菌感染に対する免疫応答の抑制が生じるメカニズム解明のため,腎臓および白血球における遺伝子発現プロファイルを解析し,鍵になる変動遺伝子の特定を試みる。
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