本研究では,予め化学物質に暴露したコイに病原菌を感染させることを想定しており,感染時のコイへのストレス負荷,および暴露物質のコンタミネーションリスクを最少化するため,浸漬感染にて細菌性感染症の発症を再現良く誘発できる感染実験系を構築する必要があった。そこで,Aeromonas hydrophilaおよびA. salmonicidaをはじめ,乳酸球菌症や類結節症の原因菌を含む6種の細菌を用いて感染実験を実施した。試験に用いた6種の細菌のうち,A. salmonicidaを1.0 × 10の6乗 CFU/mLで浸漬感染させたところ,感染3日目には体表での出血等の外観症状が観察され,9日間で90%の個体がへい死した。この結果から,A. salmonicidaを感染実験に使用することとした。 本研究で構築した化学物質の暴露と細菌感染を組み合わせた試験法の妥当性を評価するために,高濃度で免疫系の機能を抑制することが知られているデキサメタゾンの暴露試験を実施した。コイにデキサメタゾンを1000 μg/Lの濃度で暴露し,暴露開始から7日後にA. salmonicidaを2.9 × 10の4乗 CFU/mLで浸漬感染させた。その結果,デキサメタゾンを暴露した試験区ではA. salmonicidaの感染後7日目から死亡個体が観察され,35日目には全ての個体がへい死した。その一方で,暴露せずに感染のみを行った区では外観症状もへい死個体も観察されなかった。以上のことから,免疫抑制作用を有する化学物質の暴露がA. salmonicida感染個体における発症を誘発することが示され,本研究で構築した手法を用いることで,感染症の発症をエンドポイントとした化学物質の免疫毒性を評価することが可能となった。
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