研究課題/領域番号 |
26740040
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
丸林 弘典 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (00723280)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオマスプラスチック / バイオベースポリマー / 高分子量 / シンクロトロン / 2,5-フランジカルボン酸 / 偶奇効果 / イソマンニド / イソイジド |
研究実績の概要 |
本研究では、環状構造を有するバイオマス由来物質から新規高性能バイオマスプラスチックを創製することを目的とする。化学構造から固体構造まで一気通貫に制御し、構造学的見地から新規バイオベースポリマーの高性能化を目指す。 1. 重合条件の検討により、初年度に完了しなかった2,5-フランジカルボン酸由来ポリエステル(ポリエステル①)の高分子量化を達成し、重量平均分子量5万を超えるポリエステルとその自立フィルムの作製に成功した。さらに、イソマンニドからイソイジドの合成にも成功し、イソイジド由来ポリエステル(ポリエステル②-1)も得ることができた。これにより、イソヘキシドの立体異性がポリエステルの構造と物性に及ぼす影響を、当初の計画より系統的に調べることが可能となった。 2. ポリエステル①の融点や結晶化速度のアルキル炭素数依存性をより詳細に調べた結果、石油合成系のテレフタル酸系ポリエステルよりも顕著に偶奇効果が見られた。ポリエステル②-1は、初年度に合成したイソマンニド由来ポリエステル(ポリエステル②-2)と同等の結晶性と熱安定性を示し、200 ℃弱の融点を有する高耐熱性プラスチックを得ることができた。 3. ポリエステル①については、小角X線散乱測定による高次構造解析が概ね完了した。広角X線回折測定による結晶構造解析については、1で得られたフィルムから作製した延伸フィルムを用いることで良質な繊維図形が得られ、今後の解析が期待される。ポリエステル②-1については構造解析に着手した所である。ポリエステル②-2の結晶構造解析の結果、2つの異なる結晶構造について単位格子を提案し、両者の違いが分子鎖の充填様式にあることが明らかになった。 4. これまでに得られたポリエステルの平衡融点をより正確に得るため、高温下でのシンクロトロン小角X線散乱測定や、溶媒アニーリング処理を検討し、良好な結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
1. 初年度(H26年度)に完了しなかった高分子合成については、本年度(H27年度)に当初計画の95%程度完了した。残りの5%程度は「今後の研究の推進方策」に記述する。当初予定していなかったイソイジド由来ポリエステルの高分子量体が得られたため、全体として及第点の達成度である。 2. これまでに得られたポリマーの熱物性の評価を行い、ガラス転移温度や結晶化温度、融点、そして熱分解温度といった多くの有益な情報を得た。予定していた力学物性や光学特性の評価を行えていないが、その代わりにシンクロトロンX線、赤外分光、示差走査熱量測定により結晶化速度を定量的に評価し、5の「固体構造制御と高性能化」を行う上で極めて重要な知見が得られた。全体としては及第点と言える。 3. 初年度に完了予定であった「構造解析」に想定を超える時間を要した。この理由として、構造解析用試料の作製が容易ではなく、条件検討に予想以上の時間を要したことが挙げられる。そして、新規ポリマーが最も解析の難しい三斜晶を形成し、解析に多大な時間を要していることも原因である。一方、高次構造や球晶構造の評価については計画通りに行えており、興味深いモルホロジー及びその結晶化温度依存性が観察された。 4. 「極限材料物性の実験的・解析的評価」では、平衡融点の決定に多くの労力と時間を割いた。これは、多くの試料が複雑な融解挙動を示し、当初予定していた方法では妥当な数値が得られなかったためである。この問題は、高温下でのシンクロトロンX線測定や溶媒アニーリング処理を導入することで解決され、信頼性の高い平衡融点の値を得ることに成功した。 5. 「固体構造制御と高性能化」では、いずれの試料についても溶媒キャストや熱プレスにより自立フィルムを得ることができた。加えて、いくつかの試料において延伸条件の最適化を行っているが、3で述べた通り計画よりも難航している。
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今後の研究の推進方策 |
1. 「高分子量体の合成」では、ジカルボン酸として2,5-フランジカルボン酸、ジオールとしてイソマンニド・イソイジドを用いた高性能バイオベースポリマーの合成を行う。結晶性高分子を得るためには両者の間に適当なスペーサー基の導入が必要であり、これに関する文献調査は概ね完了し現在具体的な合成条件を検討中である。 2. これまでに得られた各種ポリマーのフィルムについて力学物性の評価を行い、構造との相関を明らかにする。 3. 「構造解析」の推進方策について述べる。イソマンニド由来ポリエステル(ポリエステル②-2)については、分子鎖モデルの改良と単位格子への具体的な充填様式の検討を行い、結晶構造の解明及び結晶多形・結晶転移の理解を目指す。2,5-フランジカルボン酸由来ポリエステル(ポリエステル①)については、得られた繊維図形の解析を現在行っており、ポリエステル②-2と同様の手法により着実に一つずつ構造決定を進めて行く予定である。特に、アルキル鎖炭素数の偶奇効果が構造に及ぼす影響について詳しく調べる。イソイジド由来ポリエステル(ポリエステル②-1)については、一軸配向(延伸)フィルムの作製から行っていく。 4. 「極限材料物性の実験的・解析的評価」の推進方策を述べる。まだ妥当な平衡融点が得られていない試料について、高温下でのX線測定や溶媒アニーリング処理を検討する。結晶化度の制御可能な試料については、完全結晶熱量の決定を行う。 5. 1 で新規に合成するポリエステルについては、フィルムの作製から検討する。既に自立フィルムが得られている試料については、延伸温度や熱処理温度の最適化を行う。延伸フィルムが既に得られている場合、2で述べた通り力学物性の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2,5-フランジカルボン酸由来ポリエステル(ポリエステル①)の高分子量体の合成方法が確立され、高価な2,5-フランジカルボン酸を始めとして予定より試薬量が少なく済んだため。国際学会Pacifichem 2015(2015年12月15~20日)での宿泊費と旅費を当初予定していたより安くできたため。
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次年度使用額の使用計画 |
試薬(新規に合成予定のポリエステルの分)や不活性ガス(合成や各種測定用)、X線装置のフィラメント等の消耗品の購入費に充てる。
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