研究課題/領域番号 |
26740042
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
佐澤 和人 富山大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (80727016)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝毒性 / 電気化学 / 土壌 / 火災 |
研究実績の概要 |
本研究は開発した電気化学的遺伝毒性試験を用い、(1)加熱条件および土質が加熱土壌の遺伝毒性に及ぼす影響、(2)遺伝毒性発現の原因となる土壌有機成分の特徴、(3)加熱土壌中に発生するPAHs、N-PAHsの発生・挙動を明らかにすることを目的とする。 本年度は、申請者が既に保有しているインドネシア産の熱帯泥炭を用い、遺伝毒性評価に適した条件の検討を行った。加熱した土壌に試験菌株を2~48時間暴露し、遺伝毒性を評価した。その結果、遺伝子の損傷によって菌株から生じる酵素活性は時間経過と共に増大し、24時間以上で一定となった。この結果から、最適な暴露時間を24時間とした。 現地の研究員と協力し、極東ロシアにおいて森林土壌、草地土壌、泥炭を採取した。日本に持ち込んだ後、有機成分を分析し、既に保有している熱帯泥炭、日本の高層湿原土壌と比較した。元素分析の結果、ロシア産の草地土壌、泥炭のC/N比は他の土壌に比べ低かった。これは、微生物活性が高く、有機物質の分解速度が速いことを示している。加えて、熱分解GC/MSによる分析からも同様の傾向が確認できた。これらの結果から、今回の調査において、様々な土質の土壌を得られたことが分かった。これは、本研究の目的を達成する上で重要である。 土壌の加熱条件を設定するため、TG-DTAを用い、試料を加熱させた際の吸発熱と重量変化を評価した。分析の結果、すべての土壌で200℃付近から重量変化が観察された。また、熱帯泥炭および高層湿原では300、400℃付近に明瞭な発熱ピークが観察された。一方、ロシアの草地土壌、泥炭では300℃付近にのみピークが検出された。 本研究の応用として回転ディスク電極を利用した土壌酵素測定法の開発に成功した。本法は、我々が開発した遺伝毒性試験と同様に、有色成分による光学的阻害を受けず簡便・迅速に土壌酵素を分析することが可能となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度計画していた、加熱土壌の遺伝毒性評価に適した条件の検討、ロシアにおける土壌の採取および熱分解GC/MS、元素分析、TG-DTAによる土壌有機成分の解析は現時点で順調に進展している。特に、分析結果から土質の異なる土壌を採取できたことが明らかとなり、加熱した際に発現する遺伝毒性強度および生成する遺伝毒性物質も異なることが予想される。また、回転ディスク電極を利用した土壌酵素分析法の開発に成功し、国際学術誌に論文1編を発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
加熱土壌の作成と遺伝毒性評価を行う。マッフル炉を用い250、300、350、400℃で土壌を加熱する。試料量に十分な余裕がある場合、加熱後の土壌有機成分を分析することを予定している。遺伝毒性については直接的遺伝毒性と間接的遺伝毒性の双方について分析を行う。間接的遺伝毒性は生体内の代謝を経て発現する遺伝毒性のことであり、PAHsの多くは間接的遺伝毒性を有することが明らかとなっている。さらに、N-PAHsに対する感受性が異なる菌株を用いることで、加熱土壌中におけるN-PAHsの生成および遺伝毒性への寄与を探ることを予定している。 加熱土壌に含まれるPAHsおよびN-PAHsの種類・濃度を明らかにし, PAHsに対するN-PAHsの割合(N-PAHs/PAHs)と遺伝毒性強度の関係を評価する。また、遺伝毒性物質の水圏への移行・挙動を明らかにすることを目的とし、遺伝毒性が認められた土壌残渣に水を通水後、溶出画分、残渣の遺伝毒性を評価する。再度、極東ロシアに渡航し、実際の火災跡地土壌を採取することを予定している。採取した試料の遺伝毒性、有機成分およびN-PAHs/PAHsを評価し、室内実験から得られた結果と比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請書にも示した様に、土壌中に含まれるPAHs、N-PAHsの濃度・種類を分析した研究は少ない。そのため、加熱土壌中の遺伝毒性物質の測定に適した溶媒、抽出方法等を十分に検討する必要がある。
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次年度使用額の使用計画 |
加熱土壌から遺伝毒性物質を抽出するためのトルエン、ジクロロメタン、アセトンといった有機溶媒や抽出に使用する機器(ソックスレー抽出、超音波抽出)に使用する。
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