研究課題/領域番号 |
26740042
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
佐澤 和人 富山大学, 研究推進機構 極東地域研究センター, 研究員 (80727016)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝毒性 / 森林火災 |
研究実績の概要 |
本研究は,我々が開発した電気化学的遺伝毒性試験を用い,(1)加熱条件および土質が加熱土壌の遺伝毒性に及ぼす影響,(2)遺伝毒性発現の原因となる土壌有機成分の特徴,(3)加熱土壌中に発生するPAHs,N-PAHsの挙動と遺伝毒性強度との関係を明らかにすることを目的とする。 本年度は,加熱土壌を作成し遺伝毒性強度の評価を行った。昨年度行ったTG-DTAの解析結果をもとに,各土壌を250,300,350,400℃で1,30分加熱後,試験に供した。各加熱土壌を菌体に24時間暴露した際の遺伝毒性を評価したところ,400℃で1分,350および400℃で30分加熱した土壌から遺伝毒性の発現が観察された。既存の報告により,森林火災時に土壌表層の温度は400℃以上に達することが知られており,この事象は野外においても十分起こりうることが明らかとなった。また,遺伝毒性強度は代謝活性化によって増大することが明らかとなった。これは,加熱によって生じた遺伝毒性物質の多くが,不完全燃焼によって生じたPAHs等であることを示唆している。各加熱土壌の重量減少率と遺伝毒性強度との関係性を評価した結果,弱い正の相関が観察された。特にロシア産の針葉樹林土壌は重量減少率が低いにも関わらず,高い遺伝毒性を示した。これは,土壌有機物質の量だけでなく質の違いによって,発生する遺伝毒性物質が異なることを示している。加熱土壌のΔb*値(黄,青の色彩の指標)は加熱温度の上昇,加熱時間の経過に伴い減少し,遺伝毒性強度と負の相関を示した。加熱土壌の色彩変化は有機成分の炭化の初期過程と強い関係を有することが分かっている。従って,加熱土壌の遺伝毒性は炭化の進行に伴い増大していることに加え,火災跡地土壌の色彩は遺伝毒性の指標になることが明らかとなった。本年度も極東ロシアに渡航し,土質の異なる泥炭土壌を採取し,同様の分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度計画していた,加熱土壌の作成とその遺伝毒性の評価は順調に進展しており,加熱によって発現する遺伝毒性強度と土壌有機成分の変質には関係があることを見出している。計画書では,N-PAHsに対して感受性が異なるS. typhimurium NM2009株,TA1535/pSK1002株を使用することを予定していたが、TA1535/pSK1002株の入手は困難であった。しかしながら,NM2009株を用いた結果から,各加熱土壌の遺伝毒性の違いが観察できたため,今後分析予定であるPAHs,N-PAHsの結果からN-PAHsによる影響を評価することは十分可能であると考えられる。従って、現在の進行状況は概ね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ソックスレー抽出機器または超音波装置を用い,加熱土壌からPAHs,N-PAHsを有機溶媒によって抽出・分析を行い,遺伝毒性強度との関係性を明らかにする。分析機器として液体クロマトグラフィー/質量分析法またはガスクロマトグラフィー/質量分析法を用いる。また,加熱土壌内に存在する遺伝毒性物質の移行・挙動を明らかにするために,水を通水後,その溶出画分および土壌残渣の遺伝毒性を評価する。申請者が以前行った予備実験から,通水後の土壌残渣から通水前と同程度の遺伝毒性が発現することが示されている。従って,水だけでなく,有機溶媒抽出後の残渣についても遺伝毒性を評価することを予定している。 得られたデータをまとめ,国際学術誌に論文を投稿する。
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