本研究は,我々が開発した電気化学的遺伝毒性試験を用い,(1)加熱条件および土質が加熱土壌の遺伝毒性に及ぼす影響,(2)遺伝毒性発現の原因となる土壌有機成分の特徴,(3)加熱土壌中に発生するPAHs,N-PAHsの挙動と遺伝毒性強度との関係を明らかにすることを目的とする。 土壌試料として国内で採取した泥炭,森林土壌に加え,森林火災頻発地であるインドネシア産の熱帯泥炭,および,ロシア産土壌(森林土壌,草地,泥炭土壌)を用いた. 本年度は,新たに極東ロシアで採取した泥炭土壌および森林火災跡地の土壌を加え分析を行った.TG-DTAによる分析から,ロシア産泥炭土壌は他の土壌と同様に300℃付近に明瞭な発熱ピークを示した。 これまでと同様に,マッフル炉を用いてロシア産泥炭土壌を異なる温度(350,400℃)および時間(1,30分)で加熱後,その遺伝毒性を評価した.昨年の他の土壌で得られた結果と同様に,加熱したロシア産泥炭土壌は代謝活性化によって強い遺伝毒性を示した.また,これまでの土壌では350℃で1分加熱した場合,遺伝毒性の発現がみられなかったが,ロシア産泥炭では遺伝毒性の発現が観察された.また,実際の火災跡地土壌からも弱い遺伝毒性が観察された. 各土壌を350℃で1分,400℃で30分加熱後,含まれるPAHs,N-PAHsの分析を行った.その結果,加熱土壌中および火災跡地土壌にはベンゼン環が3,4つ縮合したPAHsが主に含まれており,その濃度は重量減少率および遺伝毒性強度との間に正の相関を示した.これらの結果から,加熱土壌を菌体に直接暴露した際に発現する遺伝毒性は不完全燃焼によって生じたPAHsによるものであり,泥炭のような有機物質を多く含む土壌ほど火災後に土壌生物のDNA損傷や染色体異常を誘発するリスクが高いということが分かった.
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