過年度,流域地質以外の諸条件を極力揃えた調査地において,3タイプの地質帯における魚類群集とハビタットの関係を検討した.本年度は,調査地点数を大幅に増やし,4タイプの地質に着目した検討を行い,特に地質による河床環境の違いを明らかにし,魚類群集の特徴的な応答を明らかにした.また,過年度取得のダム関連データを用いて,ダムによる土砂量レジームの変化がハビタットの変化を介して魚類群集に与える影響を明らかにした. 期間を通した研究から,地質によって河床材料の構成と浮石の割合に差異があることが分かった.底生魚は,大礫や浮石が多い火山岩および付加体堆積岩帯を流れる河川で多い傾向を示した.花崗岩質の河川では,砂が多く,河床間隙が閉塞するため浮石が少ないことにより,底生魚よりも遊泳性魚類に適した環境であることが示唆された.結晶片岩の河川では,中礫と浮石が多く,特にヨシノボリ類が多いことで特徴づけれられた.また,他の河川に比べてヨシノボリ類の体長が小さい傾向にあった.これは中礫主体による河床間隙の小ささが影響しているかもしれず,地質が魚類の個体群構造や生活史に影響を与える可能性を示唆する. 火山岩帯の河川における治山ダム上下流およびダムなし河川との比較から,土砂の流送量が低下したダム下流サイトにおいて,露岩化,河床砂礫割合の減少とともに,瀬淵構造や側流路の減少といったハビタットの均質化ならびに魚類生息量の減少が明らかになった.これは,地質帯に依らず,基盤岩上の砂礫が失われた場合,同様の結果が生じることを示唆する. 以上より,地質帯ごとに形成される多様なハビタットは魚類群集の多様性にも寄与し,ダム等による土砂量レジームの変化は地質帯間におけるハビタットと魚類群集の単純化を招く可能性が示された.本研究は,地質と水生生物群集の関係を示した希有な研究であり,それらを一体として管理する重要性を示す.
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