研究課題/領域番号 |
26750015
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
長岡 大樹 富山大学, 芸術文化学部, 助教 (20456403)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 枠内造 / 富山県の民家 / 砺波平野の散居 / 柱間寸法 / 柱割と畳割 / 木造架構 / 指物 / 指鴨居 |
研究実績の概要 |
本研究のテーマは、富山県の民家の地方的特色である「枠内造(わくのうちづくり)」である。全体は2カ年計画で、1年目は調査、2年目は調査内容の考察を予定していた。1年目である平成26年度は予定どおり実測調査と文献調査をおこなった。調査した民家は、18世紀中頃から19世紀末までに建設された農家・約40軒である。調査では次の項目を記録した。 ・所在地 ・現存状況 ・地理的特徴 ・当地に建設された家か別地から移築された家か ・建物の向き(方位) ・建設年代 ・家格(または建物規模) ・広間(枠内造部分)の規模(間口間数×奥行間数) ・広間の柱レイアウト(配置) ・広間間口寸法および1間の長さ ・広間奥行寸法および1間の長さ ・柱間寸法の決め方(柱割か畳割かどうか) ・座敷の間口間数と寸法 ・土間の間口幅 ・土間奥行と広間奥行の大小関係 ・広間の大黒柱の太さおよび樹種 ・広間の隅柱太さ ・広間庭側の中柱の有無 ・天井部の梁の組み方と本数 ・ウシ梁の数、幅(太さ)、樹種、仕上げ方 ・ハリマモンの数、幅(太さ) ・広間天井の素材(竹スノコか板スノコか) ・内法高 ・指物(指鴨居)のせい、樹種、広間における数 ・指物の溝の作り方 ・指物上の小壁の高さ ・小壁の貫と束の数と幅 ・広間の天井高 ・大黒柱の材長 ・床の仕上げ ・イロリの有無 ・床下高さ ・基礎(石場立てか土台か) ・広間の附属要素(式台、縁、デゴシ等) ・材の仕上げ(ちょうな使用の有無等) 調査をとおして、広間における指物の使用法と意匠(せい)が、枠内造の独自性として浮かびあがってきた。こうした独自性は、他県・他地方の民家との比較で初めて明らかとなる。そのため指物のせいの全国的(一般的)傾向を把握すべく、「指物のせい 日本の民家における一般的傾向と時代的変遷」なる予備的考察を実施した。その成果は研究論文としてまとめ発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた実測調査を平成26年度中(研究期間1年目)にほぼ終えられた意味で、研究は順調に進展している。そんな状況下、調査の進行とともに「広間における指物の使用法と意匠(せい)」が枠内造の独自性として浮かびあがってきた。こうした独自性は、他県・他地方の民家との比較で初めて明らかとなる。そのためやや横道にそれるが、指物のせい(高さ)の全国的・一般的傾向の把握につとめた。具体的には「指物のせい 日本の民家における一般的傾向と時代的変遷」と題した予備的考察をおこなった。その成果は平成26年度中にまとめ、研究論文として発表した。こうした指物の考察は、当初から計画されたものでない。そのため研究全体の進行が現在やや遅れている。 全国の「指物のせい」の考察では、16世紀から19世紀に建てられた「建築年が明確な民家」165軒を分析した。結果、次の3つの傾向がみてとれた。 ①指物のせいは時代がくだる(新しくなる)につれて次第に大きくなる。 ②同時代の上層民家と一般民家を比較すると、上層民家のほうがせいが大きい。 ③民家における指物の使用は関西地方(特に畿内)が起源であり、そこから全国に普及した。 以上の全体的傾向だけでなく、たとえば「文化・文政時代に上層民家では1尺を下回る指物が消滅する」といった「編年指標」も多数見出せた。こうした「編年指標」は、平成27年度(研究期間2年目・最終年)に実施する分析作業において(特に民家の建設年代を推定する際)有用である。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間2年目(最終年)である平成27年度は、予定どおり1年目に得られた調査データをもとに富山県の農家の分析をおこなう。富山県の農家の分析だけでなく、当初計画では、富山県を除いた北陸地方(特に加賀・能登地方)の民家と比較検討をおこなう予定であった。隣接する地域に建つ民家との「微細な」違いを問題とする予定であったが、研究計画を変更し、全国の民家との「大きな」違いを問題とする。平成26年度におこなった全国の指物の把握が、富山県の農家の特色を理解するうえで有効だったからである。計上していた北陸地方の調査旅費を、全国の民家が網羅された『日本の民家 調査報告書集成』『日本の民家 重要文化財修理報告書集成』の閲覧・購入のための費用にあてることで計画変更に対応する。
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