最終年度(平成28年度)は枠内造の歴史的変遷を考察した。枠内造の歴史的変遷をたどるには、対象民家を建築年順(時代ごと)にならべる必要がある。富山県内の農家の多くは建築年が不明であったため、県内農家を編年するための指標を見出す必要に迫られた。枠内造の時代的特徴は、指物(指鴨居)のせい(成・背)によく表れている。指物の多用は枠内造の特徴であり、建築年が新しいほど、家格が高いほどせいが高くなる傾向がみてとれる。せいと建築年代、せいと家格との関係を見出すために、全国の建築年の明確な民家277棟で使用されている指物のせいを検証した。結果、上層民家では1820年頃(文政時代)からせいが0.9尺以下の指物が使用されなくなり、一般民家では1845年頃(嘉永時代)からせいが1.1尺以上の指物が使用され始める、等々がわかった。この検証から対象農家の編年が容易となり、枠内造の平面規模(寸法)や高さ、部材寸法、材種や仕上げ等に時代的特徴を見出せた。成果は速報として富山県建築事務所協会主催の講演会にて発表した。 最終年度に実測調査した民家は以下53棟である。中川家・佐伯家・富山家・羽場家・岩瀬家・田向羽場家・村上家・尾崎家・東家・池端家・中谷家・中谷理八家・畑家・福助・浮田家・山崎家・谷村家(以上富山県)、岡部家・喜多家・<織田家・杉原家・尾田家・表家・小倉家・長坂家(この6棟は白山ろく民俗資料館内)>・山岸家・<多賀家表門・松下家・山川家・永井家・石倉家・平家・野本家・高田家・園田家(この9棟は金沢湯涌江戸村内)>・高峰家・春木家・座主家(以上石川県)、遠山家(岐阜県)、古井家・原家(以上兵庫県)、進家表門(岡山県)、吉原家・石井家(以上広島県)。菊屋家・久保田家・熊谷家・福原家表門・厚狭毛利家萩屋敷長屋(以上山口県)、渡部家(愛媛県)、馬場家(長野県)、八代家(山梨県)、吉田屋酒店(東京都)。
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