本研究は,先ず災害弱者と位置づけられている高齢者に注目し,その地震被害を直接的・間接的なものから,波及的なものに至る多様な形で捉える.その上で,それらの抜本低減を実現すべく漸増傾向にある高齢者賃貸住宅の人間被害に係る居住環境要因を明らかにし,生活科学・地震工学・医学・看護学・災害介護福祉の分野横断的・包括的な視点から居住環境改善指針案を策定することを目指す.具体的には2011年東北沖太平洋地震と2016年熊本地震による内陸部の高齢者賃貸住宅における人間の地震被害分析に基づく居住環境の改善指針案を策定した。人間被害に注目すると居室の散乱度が高く,地震の揺れを覚知できる要介護度の軽い人ほど不安傾向があり,その後のQOLは下がる傾向が見られ,フォーマル・インフォーマルの両方でケア・サポートを実施する必要があった.直後の室内散乱を最小化し居室での生活を再開させることが入居者への負担を軽くし,日常生活に戻るきっかけとなる.入居者の家族は近居率が高く,同様に被災しており普段の家族からのインフォーマルサポートを受けることは難しいため一時的にQOLが下がる可能性が高い.自立度の高い人ほど不安が見られ,共用空間での生活を希望する傾向にあった一方で,認知症や統合失調症などの精神系疾患を抱える人ほど眠剤等を服薬していたため地震発生時は眠っており,“揺れ”そのものを覚知しておらず地震後落ち着いていた. 指針案の指標は外力として震度があり、建物強度・階数、居室内の散乱度(奥行/間口、キッチン配置の有無、家具密度)、職員配置と後方支援の有無、厨房の有無、住戸の空き数、共用空間の広さと配置、上下水道の供給、家族のサポート、医療・福祉他サービスであり、これらが提供できる事業所ほど入居者のケア・サポートの継続,被災者受入が可能であった.
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