本研究課題の最終目的は、ESRスピントラップ法を用いた食用油の酸化評価法の確立である。 平成28年度は、同一の試料を本研究により開発した手法と油脂の酸化評価として現在一般的に使用されている基準油脂分析試験法である過酸化物価と酸価を計測した。これらの手法による結果を比較し、本研究で開発したESRスピントラップ法による食用油の酸化評価法の有用性を評価した。 具体的なESRスピントラップ法による計測方法は、加熱した3種の食用油(オリーブオイル、ナタネ油、綿実油)を200 μL採取して、ラジカル捕捉剤のPBN(N-tert-Butyl-α-phenylnitrone)を溶解、油を入れたディスポセルをESRにセットして光照射直後に1分間計測した。得られたスペクトルで観測される過酸化ラジカル(ペルオキシラジカル(ROO・)とアルコキシラジカル(RO・))の信号強度を酸化評価に用いた。また、同じ食用油の過酸化物価と酸価を求め、ESRスピントラップ法の結果と比較した。 その結果、食用油の加熱時間の増加によって、ESRスピントラップ法での評価値、過酸化物価、酸価のいずれも増大した。ESRスピントラップ法により、食用油に光照射して発生させたラジカルを同定定量することにより、現在一般的に使用されている基準油脂分析試験法である過酸化物価と酸価と同様に油の加熱酸化を評価できる可能性が示された。 以上、ESRスピントラップ法を用いた食用油の酸化評価法の確立したことは、過酸化物価、酸価よりも簡便で短時間な簡易酸化評価法の開発につながる有益な成果であるといえる。
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