研究課題/領域番号 |
26750050
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
中村 文 県立広島大学, 保健福祉学部, 助教 (10709629)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 先行期 / 文字言語情報 / 風味 |
研究実績の概要 |
食物を摂取する前(先行期)の認知や判断が摂食嚥下活動に与える影響を明らかにすることを目的として,1)~3)の研究を遂行し,以下の成果を得ることができた。 1) ペースト食によって先行期障害を疑似できることの確認: 健常若年者を対象とし,ペースト食の見た目から予測される風味と摂食時に感じる風味とをVisual Analog Scale(VAS)を用いて比較した。見た目から予測されるその料理らしい風味が,摂食時に感じるその料理らしい風味よりも小さかったペースト食は,10種類中8種類であった。見た目から元の料理を正しく予測することが難しいペースト食が多いことがわかった。ペースト食は,本来の外観や風味との乖離が大きいため,認知機能障害を伴わない摂食嚥下障害者であっても,先行期の混乱を生じさせる可能性があり,ペースト食によって先行期障害を疑似できることを確認できた。 2) 事前情報が風味に与える影響に関する研究: あらかじめ文字言語によって提示されるレモンの産地情報が,レモン風味の飲料の風味にどう影響するのかを検討した。健常者を対象とし,レモン風味の飲料を2種類使用した。文字言語情報は,飲料の材料のレモンの産地情報として,「広島産」,「チリ産」の2種類を用いた。風味測定はVASによって行った。その結果,飲料の種類に関わらず,おいしさは,産地情報の主効果が有意であった。「チリ産」と提示された場合に比べ,「広島産」と提示された場合のほうが有意に「おいしい」と評価された。文字言語による産地情報の提示が風味に影響することが示唆された。 3) 味覚・嚥下実験用の飲料輸送装置の試作: チューブポンプを用いて,従来の装置に比し,低コストで小型の,非磁性体による飲料輸送装置を試作し,事前情報提示装置と同期させ,制御する方法を模索した。正確なタイミングで,適当な量の飲料を輸送できる否かを現在,確認中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
事前情報が風味に与える影響に関する研究については,音声言語情報に加え,文字言語情報が風味に影響することを明らかにでき,おおむね順調に進んでいると判断した。一方,ペースト食によって先行期障害を疑似できることの確認は,疑似可能なことを確認できたものの,実験に使用するペースト食の種類の選定までには至らず,やや遅れていると判断した。また,味覚・嚥下実験用の飲料輸送装置の試作は,事前情報提示装置と同期させ,制御するまでに至ったものの,実験における実用には至らなかったため,やや遅れていると判断した。以上の理由から研究全体としては,やや遅れていると考えられるが,この遅れはこれから取り返すことが可能な範囲と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「食に関する情報処理」の中においても特に「先行期障害の影響(摂取物と乖離のある事前情報の影響)」に関して,初年度は主として,先行期障害を疑似できる試料の検討,実験用飲料輸送装置の試作を行った。平成27年度は,初年度に検討・作成を進めた試料および装置を使用して実験を行い,食情報が風味や嚥下運動,脳機能に与える影響に関する研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
チューブポンプを用いた味覚・嚥下実験用の飲料輸送装置の作成に時間を要したため,予算を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
実験用飲料輸送装置を完成させて実験を行い,食情報の中でも特に,摂取物と乖離のある事前情報が風味や嚥下運動,脳機能に与える影響に関する研究を進める。先行期障害から摂食嚥下障害を引き起こしやすい認知症者や高次脳機能障害者を早期に発見する資料とすることを目指す。
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