糖尿病の母親から生まれた子供では、さまざまな新生児合併症が報告され、心疾患などが原因による突然死が起こることが報告されている。これまで我々の研究では、糖尿病母ラットから生まれた子供の心臓への影響を、糖尿病妊娠モデル動物を用いて検討した。その結果、胎児期に高血糖に曝された子は、見かけ上は正常でも、心臓の分子シグナル異常や心筋機能に重要な遺伝子の発現低下が亢進していることを見つけた。本研究ではなぜこれらのシグナル異常がもたらされるのかについて検討を行った。 糖尿病妊娠モデルラットを用いて、妊娠期間中は普通食とし、n-3系不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)を胃ゾンデにて毎日経口投与し、生まれた仔について解析した。新生児の心臓およびそれらの心臓から単離培養した初代心筋培養細胞について、インスリンシグナル伝達系に与える影響を調べた。 妊娠中にEPAを摂取した糖尿病ラットから生まれた仔の心臓およびその心臓から単離培養した初代心筋培養細胞では、インスリシグナルの異常が改善されていた。たんぱく質の糖化(AGEs化)について検討したところ、さまざまなたんぱく質が糖化されていることが明らかになった。また、活性酸素種(ROS)や炎症性シグナル分子のNF-κB、TNFαやIL-6の遺伝子発現レベルが、糖尿病ラットの仔で上昇していた。しかし、妊娠期にEPAを摂取する事でインスリンシグナル異常やたんぱく質の糖化などの異常は改善された。 初代心筋培養細胞を用いた解析により、子宮内高血糖がもたらすシグナル異常はAGEsやROSによる慢性炎症により引き起こされ、妊娠中のEPA摂取により改善する可能性が示唆された。
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