研究実績の概要 |
膵癌の発症・進展と糖尿病との関連性は認められているが、糖尿病患者における膵癌発生・増悪因子の解明はほとんど進んでいない。また糖尿病を始めとする生活習慣病の主因と考えられる毒性終末糖化産物 (toxic AGEs, [TAGE]) と膵癌の発症・増悪に関する研究は全く検討されていない。 そこで平成27年度は、ヒト株化膵管癌培養細胞PANC-1を用いて、1.果糖/ブドウ糖代謝物のグリセルアルデヒド (GA) 添加によってPANC-1細胞内に生成/蓄積したTAGEの定量、2.TAGE生成PANC-1に出現したTAGE化候補蛋白質の探索を行った。 1.「高感度で、細胞内TAGEを定量するためのスロットブロット式分析法」を新たに開発した。本分析法は、細胞から蛋白質を抽出するための抽出液の組成に工夫があり、複数の候補の中から、最適と考えられる細胞内蛋白質抽出液の組成を選択した。本分析法では、従来の分析法の1/15の蛋白質量で、細胞内TAGEの定量が可能である。PANC-1の細胞内蛋白質抽出液を検体としてTAGE定量を行い、さらに他の培養細胞や動物組織の細胞内TAGE定量にも成功した。本分析法を用いて、GAをPANC-1に添加した結果、濃度依存的にTAGEが生成/蓄積されることを証明した。 2.TAGEを生成/蓄積した状態のPANC-1細胞内の蛋白質解析を進め、癌細胞の浸潤に関与する蛋白質アミノペプチダーゼNと、細胞死に関与する熱ショックタンパク質90beta、70、27及びカスパーゼ3について、高分子化蛋白質が生成することを証明した。これらの高分子化蛋白質の生成は、PANC-1細胞内のTAGE生成/蓄積依存的に増加する。これら高分子化蛋白質は、TAGEの分子量についての免疫化学的分析の結果と照合した結果、TAGE化蛋白質であると推測される。
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