本研究は、(A)森林連日記録映像を用いた自然経年変化の観察によって気候変動問題を身近に感じるか、(B)既有自然体験の拡張として経年変化を観察させるために効果的な映像教材の要素は何か、の2点を明らかにすることを目的とした。しかし、この一連の研究計画の出発点となる、対象学習者の既有自然体験は、把握や類型化が想定以上に困難を伴うことがわかってきた。この部分に取り組まなくては当初の目的に近づくことは叶わないため、今年度は対象者を小中学生にまで拡げ、既有自然体験の把握に関する以下の成果を得た。 1点目は、自然体験に際して事前の学習を行った場合、その効果が自然体験時にどのように表れるかという視点からの自然体験把握である。具体的には、前年度に学習プログラム実践を行った東京都の中学生196名について、聴覚的意識の向上をねらった事前学習プログラムの効果を自然体験時の発見点の把握によって検討した。聴覚的発見を行った生徒は、楽曲の聴取に対する意識も高いことが示唆された。 2点目は、自然体験時の映像記録を振り返り学習時に提示した場合の、対象者の反応である。具体的には、今年度新たに対象とした山梨県の小学生59名について、自然体験活動時の映像記録を行い、その記録映像を約1ヶ月後の振り返り学習時に対象児童へ提示し、これにより児童が自身の既有自然体験を保持しながらの調べ学習が行えた。対象者の既有自然体験の把握には、単なる過去の自然体験の有無や多寡だけではなく、それらを振り返る学習をどの程度行ったかも考慮する必要性が示唆された。 3点目は、既有自然体験を振り返るゲーミング教材「フェノロジートランプ」の完成である。昨年度に小学生に対して行った実践に加え、今年度には大学生を対象とした実践を行い、その結果を反映させることで、幅広い年齢層から既有自然体験を引き出せるツールとして洗練された。
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