本研究では、文献サーベイや国内外の関係者への聞き取り調査、さらには、研究代表者が政策プロセスへの関与において得た様々な機会における観察等、様々な形態の質的調査に基づき、日本における高レベル放射性廃棄物処分に関する政策においては、福島原発事故後になされた様々な政策見直しにもかかわらず、なお政策の失敗軌道が継続していることを実証的に検証した。 ここで言う政策の失敗軌道の継続とは、単に政策の「内容」に公益や民主社会の様々な原理原則に照らした問題点が多いということにとどまらない。むしろ、「反省」や「見直し」などの語が頻発され、過去の問題点を教訓としてよりよい政策を目指し、以て公共政策上の課題解決を図るというお膳立てが繰り返されてきたのにもかかわらず、同型の問題を再生産していることを指す。 本研究の実証的な調査の結果、専門知の等閑視とそれを許容する政策プロセスが維持された結果、内外の先行事例においてすでに長年、対処が図られてきている、社会的意思決定プロセスにおける適切な参加の拡大、(世代間)倫理などの形而上学的課題に対する対話と合意形成の促進、それらに肯定的に作用する技術的・政策的手法の取り入れなどにおいて、あたかも新奇な妙案が出されたかのようにキーワードばかりが称揚される日本の政策プロセスの実相が浮き彫りとなった。また、本来はそれに対して専門知に基盤を置きながら批判的かつ建設的入力をなすべきアカデミー(日本学術会議)での検討プロセスが、知的品質管理の問題のために、表面的な世論喚起とは裏腹に政策プロセス上の実質的な意義を十分に持ち得なかったことも明らかとなった。 こうした状況は「構造災」の諸特性の普遍的存在と見ることができる。その打開、改善には政策形成・決定プロセス全体における制度設計の見直し、とりわけ政策への専門知の適切な反映のしくみ作りが急務であることが強く示唆される。
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