研究実績の概要 |
近年の研究から油性塗料は国内各地の文化財建造物で確認されており(例:談山神社,比叡山延暦寺,東大寺など)、油性塗料は漆と同様に外装塗装の材料として普及していたことがわかっている。油性塗料の確認例の増加とともに、油性塗料による修理も着目されるようになった。修理を行うためには塗料の性質や特徴を検証し、当時と同様かそれに近い方法を選択する必要がある。しかしながら油性塗料は、油に対する松脂の添加量や酸化促進剤の添加量について複数の製作方法がある。そのため同じ油性塗料でも制作方法の違いによって塗膜の特性や劣化の違いがあると考えられた。そこで本研究では油性塗料の酸化促進剤に着目した実験を行い、塗膜の特性理解と強制劣化試験から塗料の性質について検証を行った。 酸化促進剤(一酸化鉛)の添加量としては、乾性油に対する重量比で0%,0.1%,1%,5%,10%とした。その結果、添加量0%では支持体への塗布から6ヶ月経過後、表面の重合乾燥は見られたが塗り層の内部から支持体直上にかけて塗料はゲル状のままであった。 添加量1%では塗布数日で塗膜表面の重合乾燥が顕著に見られ、支持体への塗布から6ヶ月経過後、内部から支持体直上についても重合乾燥が認められた。添加量5%,10%では塗布数時間で塗膜表面の重合乾燥が顕著に見られ、特に添加量10%では1ヶ月経過後、表面から支持体直上まで重合乾燥が認められた。添加量10%では急速な重合乾燥の影響によって塗膜の一部にクラックが発生した。この結果から、酸化促進剤を添加しなかった塗料は重合乾燥に非常に長い時間がかかり、表面は塗膜が形成されても、内部の重合乾燥は不十分であることがわかった。また酸化促進剤の添加量によっては、重合乾燥が早すぎるため塗膜の収縮が発生し塗り層全体に細かなクラックが発生することがわかった。本研究は実際の修理にも役立てられる予定である。
|