本研究は,北日本の海成段丘を対象に従来とは異なる年代測定手法であるpIRIR年代測定法を適用し,中期更新世を対象とした海成段丘から絶対年代値を得て,地形面編年をおこなうことを目的としている.本研究をおこなうために,野外での段丘の記載,pIRIR年代測定を中心とした室内実験に加え,空中写真判読や,既存の数値標高データとUAVによるDEMに基づく地形分類図の作成などをもおこない,高分解能な地形発達史の解明を目指す.平成26年度には北海道北部や,本州北部陸中海岸などにおいて海成段丘の野外調査と試料採取をおこなった.陸中海岸では従来MIS19と考えられている地点において機械式ボーリングをおこない,コア試料を得た.平成27年度には北海道南西部の瀬棚平野周辺・噴火湾周辺や,襟裳岬周辺を対象に野外調査と試料採取を行った. 最終年度である平成28年度には,瀬棚平野の海成段丘において中部更新統の海成層を対象に機械式ボーリング掘削を行ない,コア試料を得た.これらの研究の結果,北日本における海成段丘の被覆層を含めた海成段丘堆積物へのpIRIR年代測定法の適用条件が確立されたととともに,複数の海成段丘面からの絶対年代値に基づき,中期更新世の海成段丘の離水年代が決定された.たとえば,北海道南西部の瀬棚平野には複数の海成段丘面と河成段丘面が存在するので,いくつかの段丘面の絶対年代データに基づき中期更新世以降の地形発達史が明らかとなっただけではなく,本地域の基盤をなす上部鮮新統~更新統の海成層である瀬棚層の上限年代も明らかとなった.陸中海岸では,地形の新旧関係や比高から従来MIS19と考えられていた海成段丘面がMIS13に対比されることが明らかとなった.これらの絶対年代値に基づく海成段丘の離水年代や発達史からは,ローカルな隆起沈降史の詳細が従来の推定値とは異なる場合が多いことなどが明らかとなった.
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