平成27年度は,平成26年度までに掘削した7本のボーリングコア堆積物と70点の放射性炭素年代値の解析結果をとりまとめた.本研究で調査対象とした利根川低地最奧部には,下位より,内湾堆積物,湖沼堆積物,汽水の影響する河川チャネル堆積物,現世河川堆積物が分布する.これらの堆積相と放射性炭素年代値にもとづくと,当該地域の古地理は,次の4つのステージに分けることができる.ステージI(6~4千年前):内湾の形成.ステージII(4~3千年前):湾口に上げ潮三角州が形成され,内湾が半閉鎖的な湖沼になった.ステージIII(3~2千年前):湾口が閉塞され,湖沼が内陸に拡大した.ステージIV(2~0千年前):湖沼が充填され,利根川の東遷以降は陸成層が厚く堆積した.ステージIIIの湖沼堆積物は,ラビーンメント面を介して内湾堆積物にオンラップしており,その古水深は,植物遺体にもとづいて約1~2mと推定される.この湖沼堆積物の古水深を最大の2mと仮定しても,当該地域では海水準が3千年前には標高-2.2mまで低下したことを示す.この海水準の低下量は,周辺地域におけるテクトニックな地殻変動や圧密の総和よりも大きく,利根川低地最奧部において「弥生の小海退」が存在したことを示す.「弥生の小海退」は,利根川低地のほか,東京低地や富山湾においても認められる.その要因としては,堆積物荷重によるアイソスタティックな影響を今後最も考慮しなければならない.
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