研究課題
本研究では,対象業務を確実に遂行できる力量を持つ要員を対応付けることで,要員の力量の観点から質保証を実現する実践可能な方法論の構築を行っている.方法論の構築にあたって,「(1)医療業務の構造と保有力量の構造を考慮した力量評価項目の開発」,「(2)力量評価に基づく要員配置を基軸とした業務プロセス設計方法の開発」を行っている.平成27年度は,前年度に行った「(1)医療業務の構造と保有力量の構造を考慮した力量評価項目の開発」の精緻化を行った後,臨床検査業務に適用しプロスペクティブな検証を実施した.それぞれ下記で説明する.①力量レベルの再定義による「力量評価項目の開発」の精緻化:従来,4段階から構成される力量レベルは「1:あらゆるケースに付添指導が必要である」「2:1人で基本ケースに対応できる」「3:1人で標準ケースに対応できる」「4:1人で困難ケースに対応できる」と定義していた.実際に力量評価するにはレベル別の評価基準をより明確化する必要があると考え,「基本ケース」「標準ケース」「困難ケース」を業務内容に即して具体的に定義する方法を検討した.新たな定義を用いることで,侵襲的手技において,レベル別の力量評価項目が具体的かつ的確に導出できた.②臨床検査業務における力量評価項目開発方法のプロスペクティブな検証:侵襲的手技において精緻化した力量評価項目の適用可能性を明らかにするため,開発した方法を,A病院における21種類の臨床検査業務に適用した.臨床検査業務は個々の患者状態の考慮を含めた専門性の高い知識を必要とすることから,生体侵襲を伴う医療業務における検討に貢献する.結果として,いずれの業務においても従来よりも業務プロセスの遂行に必要な知識・技術を的確に把握できることを確認できた.
3: やや遅れている
平成27年度の計画であった「力量評価にもとづく要員配置を基軸とした業務プロセス設計方法の開発」については,力量評価方法の精緻化に留まり,業務プロセス設計方法の開発に関して進捗していないことから「計画よりもやや遅れている」と評価した.業務プロセス設計にあたっては,標準化が可能な業務であるならば,その標準を遵守しながら着実に業務を遂行できる力量をもつ要員を対応づけることができる.このため,より的確な力量評価は重要であることから,業務プロセス設計方法の開発の中で,力量評価方法の精緻化を優先した.平成26年度までで得られていた力量評価項目の導出方法では,具体性が不足していたために開発者以外が導出した力量評価項目が不適切である傾向が見られたことから,平成27年度も引き続いて力量評価項目の導出方法の精緻化が必要と考えた.なお,高い専門性をもつ医療従事者に対する力量評価であり,その力量評価項目が実際の病院で適用可能な程度にブラッシュアップするのは困難が予想される中で,臨床検査業務においてプロスペクティブな検証を実現できたことは有用と考える.
平成28年度は,力量評価にもとづく業務プロセス設計方法の開発を進める.業務プロセスの設計には,「対象業務の標準化の程度(事前のどの程度計画できるか)」と「要員の力量レベル(どの程度優秀か)」を考慮する必要があるとされている.平成27年度までで,それまでの業務標準にもとづいた力量評価項目の導出および力量評価の実施が実施されたことから,平成28年度では,明らかになった力量の考慮に基づき,業務の標準化の程度を決定する.具体的には,共同研究を行っているA病院において,力量評価にもとづいて明らかになった要員の力量を考慮し,対象業務におけるSOP(Standard Operating Procedure)などの業務標準の作成または更新を行う.さらに,複数の業務における適用を通して,業務プロセス設計において考慮すべき事項に大きく影響する業務の性質を抽出する.当初の研究計画では,平成27年度より力量評価にもとづく業務プロセス設計方法の開発を進めることとしていたのに対し,実際には平成27年度において力量評価の精緻化および検証にとどまっている(そのため,【現在までの達成度】として「やや遅れている」とした).業務プロセス設計方針に大きく影響する力量評価が精緻になったことで,研究目的である「業務プロセス設計方法の開発」は,平成28年度(最終年度)における業務標準の作成または更新により達成可能とみられることから,研究計画の修正により,研究目的は達成可能と考える.
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