研究課題/領域番号 |
26750129
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原田 智也 東京大学, 大学院情報学環, 助教 (30452501)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 津波堆積物 / 年代測定 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,7月13日~18日と8月26日~9月4日の2回にわたって,小笠原諸島の父島・母島と,周辺の属島である南島,兄島,弟島,姉島,姪島,嫁島において津波痕跡調査を行った.この2回の調査では,平成27年度に行う津波痕跡の本調査の調査地点の選定が主な目的である,23個所において調査を行った.その結果,津波堆積物調査の候補地として,父島境浦砂浜周辺,北袋沢地区の八瀬川(父島最大の河川)流域,ブタ海岸から南袋沢にかけての海岸が有力であることが分かった.津波石に関しては,いくつかの海岸において巨石が認められたが,海岸が狭く背後に急峻な崖が存在するために,これらの巨石が津波や高潮によって打ち上げられたものか,崖の崩壊によるものかを判断することはできなかった. 本年度の調査では,さらに,上記の津波堆積物調査の候補地において,露頭のスケッチや簡易的な堆積物の掘削などの予備的な調査を行った.その結果,父島の境浦における海岸沿いの露頭面では,少なくとも3つのイベント堆積物層が確認された.ラミナおよび上方細粒化の特徴的な堆積構造を有す上位2層は,高潮や津波などのイベントによって堆積したと考えられる.2つのイベント層の下位には,現在の地表面とほぼ平行に堆積している層厚50~100cmの枝サンゴの密集層が存在する.この層は土壌層(海浜砂)に挟まれており、枝サンゴがいくつかの一定流向を示していることから,同じく高潮・津波などのイベントによる堆積物と考えられる.父島の八瀬川流域では,上流のダム建設の前後で下流域の堆積環境が変化していると考えられるが,河口付近における簡易掘削調査では,腐植物層を伴うイベント層が複数確認できた.イベント層内の腐植物に対するC14年代測定によると,これらのイベント層は17~18世紀に堆積したと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の調査では,当初,小笠原諸島の父島のみにおける調査を予定していたが,父島に加えて,母島や父島・母島の属島である南島,兄島,弟島,姉島,姪島,嫁島を予備的に調査し,平成27年度の本調査の調査地点の選定を行った.その結果,父島の3個所(境浦周辺,八瀬川流域,ブタ海岸から南袋沢周辺)を,平成27年度の津波堆積物調査の候補地として選定することができた.さらに,これらの候補地において,予備的な津波堆積物調査を行ったところ,津波あるいは高潮によって堆積したと考えられるイベント層を複数確認する事ができた. しかしながら,本来業務とのエフォートの兼ね合いや予算の制約によって,調査日数を多く確保することができず,父島・母島において,当初予定していた調査が行えなかった地点がいくつか存在する.また,津波石に関しては,いくつかの海岸において巨石が認められたが,海岸が狭く背後に急峻な崖が存在するために,これらの巨石が津波や高潮によって打ち上げられたものか,崖の崩壊によるものかを判断することはできなかった. したがって,平成26年度の調査は,調査ができてない地点が存在し,やや遅れているところもあるが,当初予定していなかった母島と父島・母島の周辺の属島においても調査を行う事ができ,この点では進んでいると考えられるので,全体としておおむね順調に進んでいると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,平成26年度の調査において,津波堆積物調査の候補地として選定された3個所(境浦周辺,八瀬川流域,ブタ海岸から南袋沢周辺)において,さらなる掘削や露頭の観察,イベント層内における年代測定試料の収集などの津波堆積物調査を行う.津波堆積物調査は,1週間程度の調査を2回行うことを予定している.そして,予備的な調査で発見されたイベント層が津波によるものかどうかの判断や,C14年代測定によってこれらのイベント層の堆積年代の特定を行う.さらに,これらのイベント層が津波堆積物である可能性が高ければ,その層が堆積した年代における,伊豆-小笠原海溝沿いを除く日本列島周辺あるいは環太平洋において発生した歴史津波との対比を行い,これらのイベント層をもたらした巨大地震の同定を試みる.もし,イベント層を堆積させるような巨大な歴史地震が対比できなければ,これらのイベント層が,小笠原諸島近海の伊豆-小笠原諸島海溝沿いにおいて発生した巨大地震による大津波によってもたらされた可能性が出てくると考えられる. 次に,父島・母島において,平成26年度に予備的な調査ができなかった地点において調査を行う.父島の二見港周辺などの人工改変が著しい低地においても,平成26年度には調査ができなかったが,この地域でも過去の津波堆積物が存在する可能性が十分に考えられるので,東京都に保管されているボーリング試料の観察や,機械ボーリングによる調査を試みることも考えている. そして,以上の結果を整理してまとめ,論文に投稿する,あるいは学会等で発表する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費が当初予定していた額より少なくて済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
試料分析費に加える。
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