非筋アクトミオシン束の収縮活性を正に制御すると考えられているミオシン調節軽鎖の2つのリン酸化修飾アミノ酸残基セリン 19およびトレオニン 18について、擬似リン酸化(アスパラギン酸置換)/非リン酸化(アラニン置換)変異体の4つの組み合わせに対し、U2OS細胞に各変異体を安定的に発現させた細胞株を樹立することで、各変異体間での収縮力の大きさの比較を行なった。収縮力の比較には、数kPaの柔らかさを有する高分子ゲル上に2種類の変異体を播種し、細胞が発生する収縮力によって生じるゲル表面の変形量を指標化した。その結果、セリン 19とトレオニン 18の両方が擬似リン酸化された変異体よりも、野生型変異体の方が大きな収縮力を発生することが明らかとなった。 上記結果を踏まえて、各変異体を発現させることで収縮力の大きさを制御可能となったため、次に収縮力の大きさが非筋アクトミオシン束の分子ターンオーバーに与える影響の検証を行なった。光褪色後蛍光回復法を用い、GFP標識した各ミオシン調節軽鎖変異体の回復率の評価を行なった。その結果、セリン 19とトレオニン 18の両方が擬似リン酸化された変異体において回復率は低く、分子の入れ替わりがほとんど生じていないことが示唆された。従来、生化学的な解析からリン酸化の亢進によりミオシンATP加水分解速度の上昇に伴うアクチン、ミオシン間の結合・解離反応がより速く生じることが報告されているが、擬似リン酸化変異体を用いた本研究では、それとは逆にミオシン分子がアクチン分子に強く結合し解離しにくくなっていることを表しているものと考えられる。これはミオシン分子が発生する収縮力がミオシン分子自身に作用する負荷となり、ATP加水分解サイクルにおけるADP放出速度の著しい低下が生じるという非筋II型ミオシンに特有の性質を表しているものと考えられる。
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