末梢交感神経束への電気刺激が血液生化学パラメータ、骨格筋での糖輸送に関与する遺伝子、脂肪組織での熱産生及び白色脂肪からの褐色化、さらに脂肪組織中脂肪酸組成に及ぼす影響について検討を行った。 ラット片側坐骨神経内交感神経束へ微小電極を用いて60分間の電気刺激を行った結果、電気刺激は血糖値ならびに血漿インスリン及びレプチン濃度に影響を及ぼさなかった一方で、血漿アディポネクチン濃度を低下させ、血漿遊離脂肪酸濃度を上昇させた。インスリン抵抗性及びインスリン分泌能を評価するためにHOMA-RおよびHOMA-βを算出したが、いずれも電気刺激によって有意な変化はみられず、末梢交感神経電気刺激はホルモン系とは異なる機構を介して糖取り込みを亢進する可能性が示唆された。 電気刺激終了後に、骨格筋でのインスリンシグナル伝達や糖輸送に関与するIRS-1、Akt、AMPKα1、AMPKα2、Glut1及びGlut4のmRNA発現量をそれぞれ測定し、非刺激群と比較したが、本研究で用いた電気刺激は、これら6種の遺伝子のmRNA発現量に影響を及ぼさなかった。次に、精巣上体周囲脂肪、皮下脂肪及び肩甲骨間褐色脂肪組織での熱産生ならびに白色脂肪からの褐色化に関連する遺伝子のmRNAとして、Prdm16、Ucp1、Dio2、Cidea、そしてミトコンドリアの指標であるCox4の発現量も同様の方法で比較した結果、電気刺激は精巣上体周囲脂肪でのCox4の発現増加、すなわちミトコンドリアを増加させる可能性が示唆されたものの、他の2部位では電気刺激の影響はみられなかった。 また、電気刺激終了後の精巣上体周囲脂肪及び皮下脂肪の脂肪組織中脂肪酸組成(24種)も測定し、非刺激群と比較した結果、電気刺激はそれぞれの脂肪組織において、飽和、一価不飽和及び多価不飽和脂肪酸を含む5-6種類の脂肪酸含有量を減少させる可能性が示唆された。
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