研究課題/領域番号 |
26750149
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
松平 崇 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20570998)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 血液代替物 / 高分子 / ヘモグロビン |
研究実績の概要 |
本研究では、輸血用赤血球の代替となり得る人工酸素運搬体として、ヘモグロビン(Hb)の配置を精密に制御した高分子量Hb集合体(aligned megadalton Hb; AM-Hb)の創製を目的としている。本研究では、合成方法の探索、物性測定、動物投与試験という三段階のステップにより、合成したAM-Hbの人工酸素運搬体としての性能を評価し、得られた結果を分子設計に反映して分子構造を最適化していく。ポリエチレングリコール鎖(PEG鎖)を架橋剤として用いたAM-Hbと、デンプンなどの多糖類を架橋剤として用いたAM-Hbについて、達成された成果を個別に報告する。 <PEG鎖を架橋剤として用いたAM-Hb> 末端に官能基が導入されたPEG誘導体をHbと反応させて、Hbを多量化することに成功した。Hbの配置を精密に制御するために原料Hbは過剰に加えられており、これを目的物であるAM-Hbから分離することに困難を伴ったものの、複数の精製方法を組み合わせることで原料Hbの除去方法を確立した。物性測定により、AM-HbはHbに比べて高分子量化していることが確認され、濃度をHb換算で約2 g/dL程度まで濃縮することに成功した。 <多糖類を架橋剤として用いたAM-Hb> HESと呼ばれるデンプン誘導体の側鎖を、タンパクとアミド結合で結合し得る官能基に化学修飾し、高純度の粉末として精製することに成功した。しかしながら、精製されたHES誘導体についてHbとのカップリングを試みたところ、いずれもHbの配置を精密に制御した多量化には成功しなかった。想定した通りの反応が進行しなかった理由は活性の不足にあると考え、分子設計にフィードバックし、現在、HES側鎖に活性のより高い残基を導入する試みを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の研究実施計画では、平成26年度において2つの達成目標を設定した。目標①AM-Hbの合成・精製方法の確立-設計したAM-Hbそれぞれについて、数mL~数十 mLの小スケールで合成を行い、分子量を精密に制御するための合成条件や、有害な不純物を除去するための精製方法を調べる。目標②AM-Hbの物性測定-合成されたAM-Hbが人工酸素運搬体に要求される物性値を満たすか評価する。 PEG鎖、及び多糖類(HES)を架橋剤としたAM-Hbについて、個別に進捗状況を報告し、目標が達成されたか評価する。 <PEG鎖を用いたAM-Hb> 業績にて報告した通り、多分岐PEG誘導体をHbと反応させて、Hbを多量化することに成功し、原料Hbの除去方法を確立した(目標①の達成)。しかし、物性測定を行った結果、AM-HbはHbに比べて高分子量化していることは確認されたものの、濃度はHb換算で約2 g/dLと、要求される値を満たしておらず、その他の物性測定については、順次実行する段階にある(目標②は部分的に達成)。 <多糖類を用いたAM-Hb> 平成26年度において、HESと呼ばれる多糖類の側鎖を化学修飾し、精製する方法を確立した。しかし、化学修飾したHESを架橋剤として用いたHbの多量化については、Hb配置の精密制御には至っていない(目標①は部分的に達成)。現在は、活性残基を変更するなど、分子設計にフィードバックして、最適な化学構造を探索している段階にある。目標②は未達成ではあるが、問題が生じた場合には設計にフィードバックして解決するというスタンスは当初のコンセプト通りであると言える。 以上の結果より、平成26年度は、設定した目標をすべて達成できたわけではないが、概ね順調に進行していると評価できる。特にPEG鎖を架橋剤として用いたAM-Hbについては、27年度に行う予定の動物実験に向けて準備は整いつつあると言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
合成、精製されたAM-Hbについて、物理化学的性質を調べる。人工酸素運搬体として使用するためには、7 g/dL以上のHb濃度、血液に近い粘度(3~4 cP)、20~25 torr以下の膠質浸透圧、そして約50 nm以上の粒子径が要求される。また、高分子量化してもHbの酸素結合解離機能が失われていないことを、酸素結合度の測定などにより確認する必要がある。これらの要件を満たさない場合は、AM-Hbの分子設計や合成方法を改良し、人工酸素運搬体としてより優れた性質を持つように最適化するか、あるいは異なる架橋剤を用いたAM-Hbの合成を検討する。 合成したAM-Hbのうち、有望なものを実験動物(ラット)に投与し、一般毒性試験や血中半減期の測定などを行い、毒性の有無を調べる。また、継続投与が肝臓や腎臓などの機能へ与える影響を追跡する。毒性が発現した場合には原因を究明し、分子設計に立ち戻ってAM-Hbの化学構造を最適化する。 動物実験において良好な結果が得られた場合、AM-Hbを数十~数百mL単位の大スケールで合成する方法を確立する。実用化を視野に入れ、未反応の原料などの不純物をより簡便に取り除く方法や、高い収率、より安価な原料や反応試薬を用いることによるコスト低下を検討する。また、大量に合成されたAM-Hbをラットの循環血液量の90%以上を交換し、大量投与時の安全性を調べる(血液希釈実験)。さらに、出血性ショック状態にあるラットにAM-Hbを大量に投与し、赤血球を投与した場合と同等に回復するか調べる。医療の現場で実際に輸血が必要な場面と同じ環境で有用性を確認することで、合成したAM-Hbが赤血球に替わる人工酸素運搬体としての使用が可能か評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付申請書において、平成26年度には、Hbよりも大きいAM-Hbの分子量領域に対応するために高分子量用の液体クロマトグラフィーカラム(昭和電工製Shodex GFC/GPC充填カラム PROTEIN KW-804, \180,000)の購入を設備備品費として計上していた。用途はAM-Hbの反応追跡、合成確認、精製確認、および分子量測定のためであったが、研究を進めるうち、高分子量化したAM-Hbであっても、電気泳動法によって廉価に反応追跡が可能であることが判明した。サイズ排除カラムクロマトグラフィーよりもコスト面で優位な同手法を主に分析に用いたため、カラム購入の資金、及びランニングコストの差額が余剰の資金として発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
<設備備品費について> 分子量を分析する目的で、平成26年度に購入を予定されていた、昭和電工製Shodex GFC/GPC充填カラム PROTEIN KW-804(\180,000)を購入する(総額の15.3%)。 <消耗品について> 試薬類のうち主なものとして、原料として用いるPEG誘導体300,000/3 g、HPLC及び電気泳動用分子量マーカー\52,000/年等が挙げられる。加えて、平成27年度は動物実験を行うためにラット(50匹\100,000/年)を購入する。器具類は、合成を行うために必要なガラス器具、精製用の限外ろ過膜、動物実験の飼料などを含む(総額の66.0%)。 <旅費、謝金等について> 研究成果発表のため、学会発表の旅費と論文投稿の費用を計上している。また、平成27年度以降は、動物実験において必要な血液生化学検査を専門業者に委託して行う(総額の18.7%)。
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