研究実績の概要 |
本研究では、輸血用赤血球の代替となり得る人工酸素運搬体として、ヘモグロビン(Hb)の配置を精密に制御した高分子量Hb集合体(aligned megadalton Hb; AM-Hb)の創製を目的としている。本研究では合成したAM-Hbの人工酸素運搬体としての性能を各種物性測定により評価し、得られた結果を設計に反映して分子構造を最適化する。 平成27年度までに、末端に官能基が導入されたPEG誘導体を過剰のHbと反応させることで、分子サイズが精密に制御されたAM-Hbを合成、精製、濃縮する方法を確立した。また、架橋剤として用いるPEG誘導体を変更することで、数種類のAM-Hbを得ることに成功した。合成されたAM-Hbを電気泳動法とサイズ排除カラムクロマトグラフ法で分析したところ、架橋剤の鎖長によりAM-Hbの分子サイズを制御できることが明らかとなった。 平成28年度では、得られたAM-Hbのうち、四分岐PEG鎖を使用したAM-Hbについて、人工酸素運搬体としての性能を評価するために各種分析を行った。動的光散乱測定の結果、得られた粒子径はHbが7.7 nmに対しAM-Hbが14.3 nmと、Hbの約2倍の粒子径を持つことが明らかになった。また、酸素結合解離曲線(oxygen equilibrium curve, OEC)測定の結果、AM-HbはHbに比べて高い酸素親和性を持つが、協同性(アロステリック効果)は低下していることが確認された。さらに、コーンプレート回転法による粘度測定の結果、AM-Hbの粘度は8.2 cP と、Hb(1.5 cP)や血液(3~4 cP)に比べて高い値を示した。 上記の通り、合成したAM-HbはHbや血液に比べて高い酸素親和性と粘度を持つため、虚血部位への酸素運搬や増粘剤に利用可能であると考えられる。平成28年度では得られた結果をまとめ、学会発表を行った。
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